徐晃伝

徐晃伝 四十三『反撃の狼煙』

情報伝達は戦の要。 軍議を重ねて、徐晃は諸将に語る。 「何よりも肝要は、籠城する味方と連絡を密にする事でござる。 何としても樊城の曹仁殿と通信すべく、活路を拓かねば!」 兵らを休ませるうちも徐晃は、休まず頭を働かせた。 「この道は通れぬ。ここ…

徐晃伝 四十二『死中に活』

樊城(はんじょう)。 外周一帯は水没し、籠る魏軍に逃げ場は無い。 揚々と意気盛んなる関羽の荊州軍がこれを幾重にも包囲し、糧道を断った。 魏兵は飢えと病に弱る。 守将・曹仁はそんな麾下の将兵を見やり、顔を歪める。 「・・・もはや軍の体(てい)を成してお…

徐晃伝 四十一『急造軍』

兵が足りない。 先に、水龍の顎(あぎと)に飲まれた于禁ら七軍は虎の子であった。 漢中・合肥の戦線も含め三方面、方々に作戦を強いられる魏軍にとって、荊州への動員兵力はもはや限界に達している。 単騎、宛城へ先駆けた徐晃はそこで将・趙儼(ちょうげん)…

徐晃伝 四十『宿命の戦場へ』

漢中から撤兵する魏軍の中に徐晃もいた。 雨が降りしきる。 兵の歩く道には泥が跳ね、足取りは重かった。 勝利を掲げて都への凱旋とはゆかず、戦略的な撤退である。 (・・・拙者の武、もっと高みへと届いていれば。 夏侯淵殿も、お味方も犠牲は少なく、勝ち戦…

徐晃伝 三十九『陽安関の戦い』

山険に鎮座する巨大な関門。 石造りに積み上げられた城壁は高く聳(そび)え立ち、何者をも寄せ付けぬ堅牢な要害を成している。 正面、巨大な鉄の門は固く閉ざされ、『陽安関』の文字が堂々と大地を見下ろしていた。 壁上にズラリと蜀軍の弓兵が構え、眼下に…

徐晃伝 三十八『急転直下』

馬鳴閣の街道へ進出した蜀将・陳式は、軍師法正の戦略眼に感嘆した。 「主戦場より遥か北西、この馬鳴閣は漢中と中原を結ぶ喉元にあたる。 ・・・山険の攻防にばかり目を取られていたが、これは妙手よ」 敵と戦って討ち破るだけでなく、軍を迂回させ敵を包囲す…

徐晃伝 三十七『反攻の糸口』

徐晃。 一軍の将である。 漢中の険しい峰々を眺めやり、歯痒い思いを抱いていた。 (攻めの手が今一つ、掴め申さぬ・・・) 蜀の劉備との山岳戦は長期に及んでいた。 軍師・法正は執拗に魏軍の弱点を炙り出す巧みな采配で、徐々に、戦局の帰趨を掌握してゆく。…

徐晃伝 三十六『隴を得て蜀を望まず』

司馬懿。 傑出した智謀を秘める稀代の軍略家だが、今はまだ鳴りを潜めて淡々と政務をこなすのみ。 それが突如、魏公・曹操へ奏上を述べた。 「漢中を得た今こそ好機。 このまま巴蜀の劉備を討つべきでありましょう」 天険の益州深くまで攻め入るには困難を伴…

徐晃伝 三十五『漢中平定』

稀代の名将・夏侯淵。 彼の指揮の下、徐晃、張郃らの活躍で涼州の戦乱は平定されてゆく。 西方に残る敵対勢力は、漢中に依る五斗米道の祖・張魯を残すのみ。 今や西涼の死神とも称されるしぶとさで抵抗を続ける馬超も、張魯の幕下で魏軍に抗していた。 そん…

徐晃伝 三十四『魏公の武威』

魏軍は、草原を駆ける。 先頃魏公の位に昇り、国を拓いた曹操の武威の下で魏軍は、今だ治まらぬ涼州の諸部族相手に草原を駆けていた。 「駆けよ、ひた駆けよ! あの高台を目指すのだ!」 徐晃は将として一軍の指揮を執る。 背後から勢い盛んに迫る騎馬兵は…

徐晃伝 三十三『涼州戦役』

賈詡。 謀略を得意とする智将で、降将であるが、今や曹操軍の参謀格として不動の地位を築いていた。 徐晃とも縁がある。 かつて楊奉に仕えていた徐晃は、楊奉の主・李傕の軍に属していたがその李傕の軍師として、賈詡が智謀を奮った時期があった。 かつて敵…

徐晃伝 三十二『潼関の戦い』

「一族の仇!曹操、覚悟ーーっ!」 西涼の錦馬超。 その鬼気迫る魂魄は苛烈。 精鋭騎馬隊を率いて一気呵成に、曹操軍本隊の喉元へ攻めかかった。 曹操軍は渡河の最中である。 蒲阪津の先に橋頭保を築いた徐晃隊に呼応し、曹操軍の本隊もまた潼関の後背から攻…

徐晃伝 三十一『背水の陣』

「ソイヤッ!ソイヤッ!!」 騎馬の疾走。 徐晃率いる一隊は、北方の黄河を渡るべく戦場を駆け抜ける。 風の如く馳せる軍団の中で、副将・朱霊は徐晃に問うた。 「徐晃殿。 我ら四千騎、精兵といえども渡河中は無防備。 襲撃を受けたらひとたまりもないので…

徐晃伝 三十『敵の虚を突く』

北の曹操、東の孫権、西の劉備。 天下は、いよいよ三国鼎立の情勢を迎えようとしていた。 さしあたって南方への進退が膠着した曹操軍は、天下平定のため次なる目標を西方の漢中に定める。 漢中は中原の要衝。 徐晃をはじめ、曹操軍の諸将兵は漢中侵攻の戦支…

徐晃伝 二十九『名将・夏侯淵』

「おっ、来たな徐晃~~! 今回は一つ、どうか俺に力を貸してくれや」 明るく陽気な振る舞いで徐晃の肩を叩く偉丈夫は、夏侯淵。 曹操の旗上げから従う最古参の宿将として歴戦を闘い抜き、将帥としての器量が成熟しつつあった。 「夏侯淵殿、麾下の副将をお…

徐晃伝 二十八『父の背中』

長きに渡る南方の戦乱を終えて許昌に帰った徐晃は、しばし休息の時を過ごす。 久方ぶりに家族との時間を味わい、しかしそれも束の間、すぐにまたひたすら修行と練兵に打ち込む日々に戻った。 徐蓋(じょがい)。 歳の十を過ぎたこの少年は、いつも邸宅の庭先で…

徐晃伝 二十七『遼来来』

「推して参る!」 セリャーーッ!と斬り掛かる張遼の激しい連撃を、徐晃は槍さばき巧みに体幹をぶらさず、一刀一刀確実に受け流す。 ギラリ、一瞬を見極めて渾身の一振りを繰り出す徐晃。 その一撃をすんでの所で、張遼は飛び退き躱(かわ)してみせた。 周り…

徐晃伝 二十六『午睡の夢』

「・・・孟徳、・・・孟徳!」 夏候惇は怪訝な表情で曹操の顔を覗き込んだ。 曹操は、練兵中に寝ていた。 「ん・・・むぅ・・・夢を見ていたわ」 練兵場に面する台座に居眠りをしていた曹操は、物言いたげな夏候惇の顔を見るや、あくびをしながら言った。 「今は雌伏の時…

徐晃伝 二十五『激闘の行方』

徐晃と関羽は、持てる武の限りを尽くして戦った。 激しく合わさる刃が武の髄を現し、戦いを通して互いの生き様を語り合う。 良き宿敵(とも)を得たり___。 鋼を熱く打ち合い死闘を演じながら、二人の表情には笑みすら浮かんだ。 しかし、それゆえに両雄は、命…

徐晃伝 二十四『武人の生き様』

徐晃は、乱世に生まれた。 良き親に育てられ友にも恵まれた。 しかし戦乱を深める時代の潮流は自然、彼を武人として成長させた。 過酷な戦場を幾多も経験し、暗迷と葛藤の日々も乗り越えて、徐晃は真に仕えるべき主・曹操と出会う。 乱世統一の大望を支え、…

徐晃伝 二十三『軍神・関羽』

徐晃と満寵は騎首を並べて、樊城を出撃した。 孫呉の猛攻に苦しむ曹仁が江陵で救援を待っている。 しかし、江陵の北道を封鎖し曹・孫の合戦を睨んでいた関羽は樊城の動きを見逃さず、一軍を率いて進撃を開始した。 「・・・計画通り。 まずは陽動に乗ってくれた…

徐晃伝 二十二『赤壁の雪辱』

赤壁に大火が昇る。 夜空は赤く燃え盛り、曹操軍の大船団は紅蓮の炎に沈んだ。 徐晃は、河北出身の騎馬隊をよく率いた事から本大戦では水軍に加わらず、荊州の要衝・樊城(はんじょう)の防衛を担っていた。 赤壁決戦での曹操軍の大敗、そして辛くも生還した曹…

徐晃伝 二十一『覇道と王道』

曹操軍は荊州を征服し、南進を続けた。 この地に居た劉備は再び依る辺(べ)を失い、更には曹操軍の追撃を受けてひたすら逃げる他なかった。 新たに軍師・諸葛亮の力を得たものの、仁の人・劉備は己を慕って付いてくる民を見捨てる事が出来ず、南へ逃げる足は…

徐晃伝 二十『南へ』

乱世を統べる曹操のもとで、徐晃はその武を奮い続けた。 北へ。 袁家残党を掃討すべく、曹操軍は中原を超えて砂漠の国々へ乗り込む。 徐晃は良く兵を率いて、時に計略を用いて敵を降し、時に苛烈な武を奮って敵を討ち、次々と武功を上げた。 数万の大軍を擁…

徐晃伝 十九『戦わずして勝つ』

袁紹が死んだ。 袁家は、官渡の敗戦から再起しその存亡を賭けて団結すべきところを、あろうことか袁譚(えんたん)と袁尚(えんしょう)の兄弟が後継を巡って骨肉の争いを始め、曹操軍の侵攻を許した。 曹操は自ら馬を駆り、袁家の拠点・邯鄲(かんたん)を破り、…

徐晃伝 十八『JOCO'Sキッチン』

満寵はある日、徐晃の邸宅に招かれた。 「よくぞ参られた満寵殿。 今宵は、日頃の感謝を込めて晩餐を作らせて頂き申す」 「徐晃殿が作るのかい?」 思わぬ申し出に満寵は呆気にとられたが、やがて好奇の眼差しで厨房に立つ徐晃の後ろ姿を眺めた。 居間の卓に…

徐晃伝 十七『官渡決戦』

官渡決戦は、長期戦の様相を呈していた。 白馬・延津の初戦で手痛い損害を被った袁紹は慎重に転じ、数で優るその威を以って持久戦に持ち込んだ。 その圧倒的物量に、曹操軍は徐々に劣勢へと追いやられる。 状況を打開すべく軍議を練る諸将を前に、徐晃が言っ…

徐晃伝 十六『修練の日々』

関羽との訣別を経て徐晃は、より一層の鍛錬に励んだ。 「拙者の武、兄者の志と共にある」 関羽の雄々しき言が頭の中に響く。 あの比類なき強さの源泉は、仁の志を支えんと決す強固な信念にある。 徐晃が往く武の頂き、その眼前に立ち塞がる巨大な壁の如き関…

徐晃伝 十五『宿命』

続く延津の戦いでは、袁紹軍の猛将・文醜の騎馬隊が猛威を奮った。 これに力押しで当たらず、専守防衛に徹した徐晃の指揮こそ兵法の妙であろう。 文醜隊に疲れが見え、勢いが死んだ機に一転、徐晃隊は攻勢に出た。 さらに軍師・荀攸の策で文醜の兵に乱れが生…

徐晃伝 十四『白馬強襲』

徐晃は良く兵を率いて戦った。 袁紹軍の動きを見極め、右翼に敵の勢いあればこれを受け流し、左翼に敵が浮き足立てばこれを苛烈に攻め立てた。 兵を手足の如く動かす徐晃の采配は見事であった。 敵将・顔良も奮戦するが、この白馬の戦場に引きずり出された時…