徐晃伝 二十九『名将・夏侯淵』
「おっ、来たな徐晃~~!
今回は一つ、どうか俺に力を貸してくれや」
曹操の旗上げから従う最古参の宿将として歴戦を闘い抜き、将帥としての器量が成熟しつつあった。
「夏侯淵殿、麾下の副将をお任せ頂き光栄にござる。
何卒よろしくお頼み申す!」
赤壁の敗戦から向こう、曹操の支配基盤が比較的堅固でない西域方面では地方豪族の反乱が相次いだ。
今回、并州晋陽・太原の地で叛(そむ)いた勢力征討の任に当たり、総大将・夏侯淵はその副将として徐晃を招いた。
「だはぁ〜〜!相変わらず固いな徐晃!
ま、そう気負いなさんな。
だが!戦には敗けられねえ。
気張れよ〜〜!」
「はっ!!」
徐晃は恭しく拱手(きょうしゅ)し、拝命して夏侯淵の指揮下に参じた。
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軍営に太原の地図を拡げて、夏侯淵は諸将に下命する。
「今回の乱、もたもたして長期戦になればちと厄介だ。
鎮圧までの早さがカギよ!電撃戦で落とす!」
叛乱軍の大将は商曜(しょうよう)。
大陵の城を本拠に、太原地方の全域を巻き込んで叛意を起こそうという機運が高まっている。
だが、態勢はまだ万全には整っていない。
曹操軍の動きは早かった。
神速の行軍で将兵を太原に展開させると、夏侯淵は自ら前線にあって指揮を執り、巧みに配して拠点を次々と落としてゆく。
賊軍は機先を制され、勢いが死んだ。
「いざ参る!
敵の要衝を落とすのだ!」
中でも群を抜いて活躍した将は、徐晃である。
夏侯淵の示す全体戦略をよく理解して個々の局面で戦術を指揮し、短期間の内にのべ二十もの敵拠点を制圧した。
「さすがの名将っぷりだな徐晃!
俺のやりてえ戦を、こうも見事に体現するとは」
前線型指揮官として兵を動かす夏侯淵にとって、徐晃の堅実で攻守に優れた用兵はこの上なく頼もしい手足であった。
「夏侯淵殿、さすが音に聞く名将でござる!
拙者の振るう武を、こうも巧みに使いこなすとは」
徐晃は自部隊による局面突破を、余すことなく戦略的勝利に結び付ける夏侯淵の指揮に将帥の大器を感じた。
元来烏合の反乱軍にとって、形勢不利の戦況は一層の悪循環をもたらす。
離反する勢力、日和見していた勢力はことごとく静観を決め込み、ついに大陵の城は孤立して曹操軍に包囲された。
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あっけなく大陵は陥落し、頭領の将・商曜は捕えられ夏侯淵、徐晃の下に膝を屈する。
夏侯淵は剣を向けて言う。
「誰であろうと、殿の覇道に叛いて乱世を深める輩を野放しには出来ねえ!
・・・何か言い残す事はあるか」
商曜が口を開く。
「・・・漢室の威光を私物化する逆賊・曹操の手先め!
我が正義の刃、武運拙(つたな)くここで折れようと、貴様らの不義を正さんと立つ者は我が後に次々と起ころうぞ!」
そもそも単独で叛乱を起こすにはあまりに寡兵。
そしてこの開き直った言い方である。
此度の決起、何か当てがあったかのように思える。
「夏侯淵殿、これは・・・」
「・・・ああ、こりゃ背後に黒幕がいるわな」
決して口を割らなかった商曜は武人として堂々処断され、ここに太原の乱は平定された。
西域に大乱の兆しあり。
夏侯淵はいつになく神妙な面持ちで語った。
「・・・この先も殿の行く道には、多くの戦いが待ち受けている。
徐晃、また今度のように俺と一緒に戦ってくれや」
「無論でござる。
名将・夏侯淵のもとでその采配の妙を学んだ経験は、徐晃の戦歴にとっての至宝となった事であろう。
徐晃伝 二十九 終わり