徐晃伝 四十三『反撃の狼煙』
情報伝達は戦の要。
軍議を重ねて、徐晃は諸将に語る。
「何よりも肝要は、籠城する味方と連絡を密にする事でござる。
何としても樊城の曹仁殿と通信すべく、活路を拓かねば!」
兵らを休ませるうちも徐晃は、休まず頭を働かせた。
「この道は通れぬ。ここは敵が厚い・・・」
軍営の篝火(かがりび)は夜通し明るく、幕僚らが智恵を振り絞る。
方々に隈なく斥候を放って情報収集を徹底した。
敵軍の陣形、周囲の地形・地質をつぶさに調査する内ついに、活路を見出す。
「数里先の村より地元の民が用いる井戸道がござる。
ここから地下道を掘り進め、以って樊城に伝令を遣わせん!」
結集した工兵達は昼夜突貫して作業を進めた。
その間にも将兵は規律正しく鍛錬に励み、練度を上げて決戦に備える。
―本国。
中央では兵站部が必死に戦力を掻き集め、徐晃の援軍に少しでも兵を加えようと画策していた。
司馬懿、賈詡ら謀官は外交戦略を駆使して孫呉との連携を模索した。
全ては、樊城における決戦のため。
堂々立ちはだかる最大最強の敵・関羽。
徐晃が、これに挑む。
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ボコッ!!
土塀の足下がへこみ、穴が空いた。
樊城の内側である。
衰弱した兵らはその奇妙な光景に驚き、何事あるかと続々集まる。
やがて広がった大穴から、土汚れた兵が現れた。
「て、敵かっ!?それとも」
魏兵。
伝令兵だった。
「徐晃将軍の命により、樊城の救援にまかり越した!」
この報せを聞いた兵達の安堵と歓喜とはどれほどの事であっただろう。
すぐに曹仁、満寵も駆け付け伝令兵を労った。
「ああ・・・良かった!
徐晃殿、君が援軍に来てくれるとは!
頼もしい限りだ」
満寵は胸を撫で下ろす。
その心からの安堵には、旧き友への絶対の信頼が伺えた。
坑道の開通は早、徐晃にも報が届く。
「曹仁殿、満寵殿はご無事か!
よくぞ、よくぞここまで持ち堪えられた・・・!」
以来、城内と城外、両軍は密かに連絡を重ね、来たる反攻の機を伺った。
徐晃が率いる宛城の陣には少しずつ、だが着実に中央より増援が駆け付け、いよいよ軍勢の体が整いつつある。
そこへ、急報が入る。
関羽が陣形を変えた。
「・・・不可解でござる」
軍図に重ねた駒を動かして徐晃は、刮目する。
この局面で兵を一部退げるとは腑に落ちぬ。
まさか、
「・・・兵糧が足りぬのではないか」
これまでの関羽の戦術からは考え得ぬ用兵。
先般、投降した多くの魏軍敗残兵を養うに糧食が尽きつつあるか。
徐晃は軍机を立ち、諸将を召集する。
「反撃の時は、今でござる!」
狼煙が上がる。
銅鑼や太鼓が鳴り響き、宛城から軍勢が発した。
決戦の時が、間近に迫る。
徐晃伝 四十三 終わり