徐晃伝 四十一『急造軍』
兵が足りない。
先に、水龍の顎(あぎと)に飲まれた于禁ら七軍は虎の子であった。
漢中・合肥の戦線も含め三方面、方々に作戦を強いられる魏軍にとって、荊州への動員兵力はもはや限界に達している。
単騎、宛城へ先駆けた徐晃はそこで将・趙儼(ちょうげん)より戦況を聞く。
切迫した窮状、されど、
「・・・樊城に留まる曹仁殿らを見捨てるわけに参らぬ。
これを関羽殿に破られれば、もはや許昌は目と鼻の先でござる!」
魏国、最大の危難。
関羽は強い。
徐晃は口元に手を当て、静かに目を瞑る。
(何としても、この逆境を乗り越えん・・・!
武の頂、達すべき時は今でござる。)
見開いた双眸には決意が宿る。
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かろうじて、先発として動員された兵団がある。
投降した雑軍や、徴兵されて間もない若い新兵ばかりであった。
「徐晃将軍!
我ら身命を賭して戦います。」
士官が拱手し、徐晃に傅(かしず)く。
「・・・よくぞ参られた。拙者に任されよ!
貴公らを良く率いて、必ずや戦局を打開しよう」
将は徐晃。
副将に趙儼(ちょうげん)。
この急造軍を率いて、荊州戦線の危難に臨む。
兵の大半はまだ若く、初陣を迎える青年達ばかりであった。
徐晃は幕下の諸将と共に兵舎へ降り、野営する士卒らを巡察して回る。
(兵の練度には望むべくもない。
如何にして関羽殿に抗するべきか・・・)
思案を巡らす徐晃の前に、進み出て声を上げた者がある。
「・・・父上!
お久しゅうございます」
子の徐蓋であった。
「なんと、蓋か!?
おお、驚いたぞ」
見違えるように凛々しく、精悍な若者に成長した我が子を前に徐晃は、万感胸に迫る思いを抱いた。
同じような年頃の若者らを背に率いて、堂々、鎧を輝かせる。
「今日まで些(いささ)かも鍛錬を欠かしてはおりませぬ。
初陣を父上の元で、お供させて頂けるは誉れ!
必ずや樊城のお味方を救い申さん!」
折しもの私信には長子として、いよいよ陣に加わる歳かと伝え聞いたものだが、よもや己の麾下に加わるとは。
徐晃は束の間、親子の情に心を絆(ほだ)した。
されど陣中、将として、私心とは別に徐晃は凛として士卒兵らを率いて臨む。
「諸兄らは、兵!
仲間を救い、郷土の家族を守るのだ。
拙者の背に続き奮迅召されよ!」
軍規は厳しい。
しかし誰よりも廉直に、練兵にも軍議にも、忍んで己の鍛錬にも打ち込む徐晃の雄姿は範となった。
新兵らは志に燃えて意気込み、士気は高い。
急造軍ながら訓練は捗り、来たる決戦に備えて励む。
徐晃伝 四十一 終わり