徐晃伝 二十七『遼来来』
「推して参る!」
セリャーーッ!と斬り掛かる張遼の激しい連撃を、徐晃は槍さばき巧みに体幹をぶらさず、一刀一刀確実に受け流す。
ギラリ、一瞬を見極めて渾身の一振りを繰り出す徐晃。
その一撃をすんでの所で、張遼は飛び退き躱(かわ)してみせた。
周りを囲み固唾を呑んで見守っていた兵達から、ドッと歓声が沸き起こる。
模擬戦といえ、今や曹操軍の大将として並ぶものなき双璧の武人が、真剣勝負の激闘を演じているのだ。
これが興奮せずにいられる兵士は居ない。
「徐晃殿!
相も変わらず堅実な防禦と大胆な攻撃、まこと見事なる武よ!」
張遼は賛辞を贈る。
「過分なお言葉、恐れ入り申す。
張遼殿の苛烈な攻めこそ、その一打一打以前にも増して重く激しく!
真の武への道を駆け抜けておられる」
徐晃と張遼は久方ぶりの手合わせを終え、各々許昌の邸宅で湯浴みを済ませると、その夜は諸将と共に酒宴に顔を出して語り合った。
大いに武を語り合った。
張遼は盃を傾けながら、過日の友誼を懐かしむ。
「・・・いやはや、こうして武の道を語り明かしていると、徐晃殿、関羽殿と三人、互いに武を競いながら戦場を駆けた日々を思い出す・・・」
「懐かしゅうござるな・・・」
乱世に生きる武人三人、行く道は違えど、志は同じ。
共に駆け抜けた日々は宝であった。
「張遼殿。
曹操殿が征く大望のため・・・いずれ関羽殿とは雌雄を決する時が来よう」
「うむ。いずれその日が来たるまで、武の道を究めん!
張遼は拳を握り、その眼に闘志を燃やした。
後、張遼は対孫呉戦線の司令に抜擢され、二度と関羽と相見(まみ)える事は無かった。
しかし曹操の覇業を支えた名将・張遼の活躍は、合肥での鬼神の如き伝説を打ち立てる。
『遼 来来』の威名は大陸に拡がり、やがて関羽の耳にも届いた事だろう。
徐晃とは終生、良き友であった。
徐晃伝 二十七 終わり