VERITASBRÄU(ヴェリタスブロイ)とビール純粋令

 

ノンアルコールビール

 

今まで全く飲む機会はありませんでした。

自分とは無関係の事と思っておりました。

 

飲みたければ普通に、ビール飲むからね。

 

しかし私事ですがこのたび病院で常飲薬を処方され、毎晩寝る前に飲まなければならぬ薬が出来て、状況は一変しました。

 

酒と薬は一緒に飲まないで、とはよく言われる事ですが「ちょっとなら良いでしょ」のつもりがほぼ毎日の事となれば、看過できない影響が人体に及ぼされてきます。
(頭が痛くて眠気が永遠に続いたりしました。)

 

そこで初めて、ノンアルコールビールの可能性に着目したのです。

 

皆さんも続く戦乱の肝臓に休肝日を設けたい時ですとか、車を運転しなければならない時など、ノンアルコールビールという選択肢を考慮した経験がお有りかと存じます。


昨今、その種類は豊富です。

そこでまずは王道、サントリー社のオールフリー、アサヒ社のドライゼロなど有名どころを購入して試してみました。

 

気になるそのお味は・・・虚無。

 

 

無(む)

 


無の味がしました。

 


ささやかに香りの付いた苦い炭酸水といった趣きです。

必死にビールに似た何かを再現しようとした企業努力を感じますがしかし、決してビールではありませんでした。

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

ドイツでは、"ビール純粋令 "という法律が施行されています。

 

「ビールは、麦芽・ホップ・水・酵母のみを原料とする」

 

この一文を内容とするもので、起源は1516年4月23日。

バイエルン公ヴィルヘルム4世が制定し、現在でも有効な食品に関連する法律としては世界最古とされています。

 

後に1871年ドイツ帝国統一に際してバイエルン王国がその参入への前提条件として「ドイツ全土へのビール純粋令の適用」を求めたほど、ゲルマン民族の魂が込められた法律です。

 

その恩恵により今日もドイツのビールは、純粋な原材料を活かした高品質で美味しい世界有数の銘を誇っているというわけです。

 

 

f:id:AlaiLama2039:20181015225604j:plain

~~~~~~~~~~~~

 

VERITASBRÄU(ヴェリタスブロイ)は、そんな純粋令下のドイツにおいて伝統製法で醸造された本格的純粋ビールであり、醸造後に脱アルコール処理を行う事でノンアルコールビール化を実現しています。

 

f:id:AlaiLama2039:20181015225703j:plain

 

その風光明媚と味わい深さたるや、現代日本国の添加物ごちゃまぜ生成の結果として虚無の味に堕ちたノンアルコールビールとは格段に異なる美味しさ、ノンアルコールの概念を覆す、純然たるビールの芸術を堪能する事が出来るのです。

 

ドイツ国から輸入しているにもかかわらずアルコール0.0%のためお値段は1缶330mlで110円程度、絶大なコスト・パフォーマンスの高さを実現しています。

 

 箱買いしました。

 

 

通常のスーパーやコンビニの店舗では置いていませんが、お酒屋さんや輸入食品店などでは結構売ってたりします。

 

ノンアルコール界のサラブレッド、ヴェリタスブロイに受け継がれた崇高なる魂は、かつて中世の低品質ビール世情を嘆きドイツ・ビール本来の誇りを取り戻すべく歴史的法改正に臨んだ、当時の賢人たちの叡智の結晶であると言えるでしょう。

 

 

 

 

 終わり

 

 

【参考文献】

・『ドイツビール おいしさの原点 バイエルンに学ぶ地産地消』木村麻紀、学芸出版社、2006年

・『マイスターのドイツビール案内』高橋康典、幻冬舎ルネッサンス、2007年

 

a.r10.to

 

https://amzn.to/2PAOWbp

徐晃伝 三十五『漢中平定』

 

 

稀代の名将・夏侯淵


彼の指揮の下、徐晃張郃らの活躍で涼州の戦乱は平定されてゆく。

 

西方に残る敵対勢力は、漢中に依る五斗米道の祖・張魯を残すのみ。

 

今や西涼の死神とも称されるしぶとさで抵抗を続ける馬超も、張魯の幕下で魏軍に抗していた。

 

そんな中、魏軍に報せが届く。

 

「お味方の姜叙殿が、馬超の攻撃を受けております!

急ぎ救援を賜わりたく!」

 

しかし漢中の張魯を目前に、馬超の猛威が轟く祁山への出兵には諸将は、難渋を示した。

 

「このように複雑な戦況に至っては、曹操殿のお沙汰を待つべきであろう」

 

大勢の意が傾きつつある状況で、しかし夏侯淵は軍机を叩いて喝破した。

 

「いや~~ダメだダメだ!

殿のいる鄴まで往復四千里、待ってたら姜叙はとても保たねえ!」

 

足掛け三年に及ぶ涼州戦役で夏侯淵は、総司令として善戦を尽くしていたが見据える先は曹操の覇道。

(こんな所でモタついていちゃあ、殿の天下が遠のいちまう・・・!)

 

「全責任は俺が持つ。

全軍で祁山の馬超を討つ!」

 

決断であった。

 

魏軍の対応は素早く、一挙に祁山へ戦力を投入したのは妙手であった。

先陣の徐晃張郃は適確に兵を配置し、 寡兵の馬超にはもはや取り付く島もない。

 

 「若・・・今は堪(こら)えて!

こうなった以上、退くしか手はないよ」

 

側近の馬岱に説得されて、馬超は、辛酸をなめるが如き苦渋で撤退を決意する。

 

先般、王異の執拗な攻勢に不覚を取って戦果も無く、張魯に疑われた馬超らはついに依る辺を失い、やがて巴蜀劉備を頼って落ち延びる事になる。

 

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~


張魯は、曹操に降伏した。

 

ここに至って魏の支配版図は華北から涼州、そして益州の喉元・漢中にまで拡がった。

西方戦線におけるこの並みならぬ武功はひとえに総大将・夏侯淵の手腕である。

 

旗上げから従うこの古参の名将に曹操は、仮節の大権を授与し征西将軍の号を任じて改めて、厚く遇した。


「ああ・・・なんと壮麗な戦振りでしょう。

夏侯淵将軍の采配の妙には、胸の滾りを抑える事が出来ませんね」

 

華美を重んじる智将・張郃も、夏侯淵の下でその才を開花させ武功抜群の活躍をした。

 

「うむ。夏侯淵殿の指揮たるや、見事!

斯くも大局を見据え、堂々と戦を描き切るとは。

拙者も多くを学ばせて頂き申した」

 

徐晃も将として夏侯淵の采配に学び、武の研鑽に磨きをかけた。

 

徐晃張郃

いや~~本当に助かったぜ~!」

今宵の酒宴の主賓たる夏侯淵は、恰幅の良い身体を揺らして徐晃張郃へ、親しみを込めて盃を捧げた。

 

「お前達が全霊の武を奮ってくれたおかげで、殿の天下へまた一歩近づいた。

本当によく戦ってくれた、感謝してるぜ」

 

長きに渡る戦役の日々に一応の区切りを得て、今宵ばかりは顔を赤らめて酒に酔う。

 

面倒見がよく、親しみ深いこの人柄も名将・夏侯淵の魅力であった。

 

夏侯淵殿、拙者は感服致してござる。

その采配の妙、まこと武の極みに届いておられる。

戦略とは斯く描くものであると夏侯淵殿に教えて頂き申した」

 

徐晃は恭しく拱手し、盃を受けて謝意を述べる。

 

「だはぁ~~~!相変わらず固いな徐晃

 

だが、その真っ直ぐな志がお前の強みだわな。

どうかこれからも共に、殿の天下のため戦ってくれや」

 

上気した酒くさい息でがっしりと肩を組まれて徐晃は、しかし快くフッと笑みを浮かべて勢いよく、夏侯淵のついだ盃をグイと飲み干した。

 

 

「・・・美酒にござる」

 

夏侯淵は無邪気な笑顔で喜んで、徐晃の肩を叩く。

やがて自らも盃を飲み干すと今度は別の将を労うべく卓を回って歩いた。

 

その後背を見て、徐晃は思う。

 

(・・・良き上官に恵まれ申した)

 

 

今は戦いの疲れを忘れ、ひと時の酒に酔った。

 

 

 

 

徐晃伝 三十五 終わり

 

 

 

 

徐晃伝 三十四『魏公の武威』

 


魏軍は、草原を駆ける。

 

先頃魏公の位に昇り、国を拓いた曹操の武威の下で魏軍は、今だ治まらぬ涼州の諸部族相手に草原を駆けていた。

 

「駆けよ、ひた駆けよ!

あの高台を目指すのだ!」


徐晃は将として一軍の指揮を執る。

背後から勢い盛んに迫る騎馬兵は、白項氐王率いる大軍。

 

「逃がすな!矢を放てい!」


必死で逃げ駆ける徐晃隊の頭上に、一斉に放たれた矢が降り注ぐ。

駆けながら背を守る事能わず、射抜かれて騎兵は次々と倒れた。

 


敵は氐族、西方の騎馬部族である。

 

平素馬上に暮らす彼らの馬術はひと際優れ、駆けながら手綱を放し弓矢を射る芸当にも難がない。


平野での会戦には甚だ不覚を取り、徐晃隊は壊滅の事前に撤退を判断した。


総攻撃に移る氐族を背に、徐晃隊は岩肌のむき出した高台を目指し駆ける。

 

「これは追い付ける。
槍を持て!一気に蹴散らしてくれるぞ!」

 

冠に羽根飾りを翻して白項王は、弓矢を槍に持ち替え徐晃隊の真後ろに迫った。

 


その時。

徐晃がスッと手をかざす。

 

突如、統制の取れた魏軍は整然と左右に散開した。

 

氐族の眼前に高台が開く。

 


張郃殿、今でござる!」

 

高台の頂には張郃率いる伏兵が居並び、岩や丸太を一斉に転がし落とした。

 

「しまった!散れ、散れい!」


氐族は咄嗟に踵を返し、先鋒こそこれを避けるが後続の大多数は岩や丸太の下敷きに押し潰され、尋常な被害を出した。

 

かろうじて難を逃れた残軍が態勢を取り戻す暇も与えず、散開していた徐晃隊が駆け戻り白項王の本隊を襲う。

 

「草原の王、覚悟召されよ!」

 

徐晃は馬上から手斧を構え、敵大将の姿を見定め勢いよく投擲する。

 

鋭い軌道を描いて短斧は氐王の肩を斬り落とした。

鮮血が舞う。

  

「いかん!王をお守りせよ!」

部下の精兵に庇われて氐王は、命からがら戦場を逃げ出した。

 


徐晃は敵の総崩れを認めて混戦を治め、高々と宣言する。

 

「草原の民よ!

天下静謐こそ我らが望み、いたずらに乱を望むものではござらぬ。

中原への略奪を止め、魏公・曹操殿に臣従を誓うものであれば、貴公らを決して無下には致さぬ!」

 

大将を失い惨敗を喫した氐族は一も二もなく、次々と武器を落として従った。

 


こうして徐晃はまた一つ敵軍を治め、そのことごとくを魏国の威の下に接収した。

 

 

 

 

 

徐晃伝 三十四 終わり

 

 

徐晃伝 三十三『涼州戦役』

 


賈詡

謀略を得意とする智将で、降将であるが、今や曹操軍の参謀格として不動の地位を築いていた。


徐晃とも縁がある。


かつて楊奉に仕えていた徐晃は、楊奉の主・李傕の軍に属していたがその李傕の軍師として、賈詡が智謀を奮った時期があった。

 

かつて敵として曹操に対した経歴も、徐晃と同じである。

 

真っ直ぐで清廉な徐晃の人品と、権謀術数を駆使するしたたかな賈詡とでは正反対の性格だが、不思議と二人は互いの境遇や信念、その生き様に共感を抱くところがあった。


軍議の席で、賈詡が述べる。

「先般まで敵さんの士気は高く、策の講じようもない戦況だった。

それが徐晃殿!あんたの活躍で涼州連合軍は形勢の有利を失っている。

いま離間之計の一手を打てば、効果は覿面(てきめん)だろうよ」

 

連合軍の両頭・馬超韓遂は反曹操で結託したものの、元来のところ敵同士。

 

賈詡は二人の疑心に目を付け、韓遂の下へ使者を送った。

果たして馬超韓遂を疑い二人の関係に亀裂が走る。

 

曹操軍・涼州連合軍が死闘を演じた潼関を巡る一連の戦役は、後者の瓦解により決着を見ようとしていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

曹操軍は関中を平定する。

 

大局の趨勢を見極めた曹操は首府・鄴へ帰還し、残した十万から成る大軍勢の総大将には夏侯淵を任じた。

張郃、朱霊ら諸将を幕下に西方戦線、先には涼州そして漢中への侵攻を任に新たな戦局へと備える。

 

徐晃は、この大軍勢の中核にあった。

 

 足掛け三年。

 

西方の羌族や氐族、中華とは風俗を異とするしかし精強無比なる騎馬軍団を有す涼州軍閥との戦役は、苛烈を極めた。

 

徐晃は将としてその武の研鑽に果てなく、ひたすら道を究め続ける。

 

 「拙者が参る!

いざ、手合わせ願おう!」

 

手ずからに牙断を振るい戦場に強者を追い求め、曹操の覇道を支えて戦い続ける。

 

 

(・・・貴公との宿縁には、いずれ決着の時を得よう)

 

徐晃の脳裏には宿敵・関羽の精悍な声色がいつも響いていた。

 

来たるべき決戦の時を迎えるまで、徐晃は戦場をひた走る。

その眼の先に武の頂を見据えて。

 

 

 

徐晃伝 三十三 終わり

 

 

 

徐晃伝 三十二『潼関の戦い』

 

「一族の仇!曹操、覚悟ーーっ!」

 

西涼の錦馬超

その鬼気迫る魂魄は苛烈。

 

精鋭騎馬隊を率いて一気呵成に、曹操軍本隊の喉元へ攻めかかった。

 

 

曹操軍は渡河の最中である。

 

蒲阪津の先に橋頭保を築いた徐晃隊に呼応し、曹操軍の本隊もまた潼関の後背から攻めるべく大規模な渡河作戦を実行した。

 

こうなった以上、連合軍は潼関を放棄して戦線を下げるほか対抗策は無い。

 

しかし馬超は、復讐の鬼と化した馬超は兵法の常道に構うことなく、曹操自身の渡河こそ千載一遇の好機と見出し、その首を討つために総攻撃を仕掛けた。

 

曹操っ!

殺された一族の無念、怨み!この俺が晴らしてくれようぞ!!」

 

騎上の豪腕から投げられた長柄の槍は鋭い弾道を描き、勢いよく曹操のすぐ足下、船の縁へ激しく突き刺さった。

 

 水面は溺れる兵士で溢れ、船足は重く、矢の雨が襲い掛かり次々と転覆した。

 

「おのれ馬超!もはやこれまでか・・・!」

 

曹操に危機が迫る。

 

 

 

黄河西岸、軍営の物見から本隊急襲の報せを聞いた徐晃と朱霊は、遠く対岸の戦火を見やる。

 

「おお・・・なんという惨状か・・・!

我が軍の兵士が、あんなにも多く溺れている!」

 

朱霊はギリリと拳を握り、徐晃に向き直り言った。

 

曹操殿のお命も危うい!急ぎ救援に参らねば!」

 

 

 

徐晃は、冷静である。

 

 

 「朱霊殿、お気持ちはよくわかり申す。

されど拙者らがここを離れれば、渡河そのものが無為になりかねぬ。

 ・・・今は信じるのだ、曹操殿のお命は股肱の臣が守ってござる」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~ 

 

曹操の座乗する舟艇、その頭上に矢の雨が降り注ぐ。

 

曹操は目を閉じ、最期を覚悟した。

 

 

 

「御大将!お下がりくだせぇ!」

 

先に逝った典韋の声が脳裏に響く。

 

 (・・・悪来よ!)

 

 

 

その時、曹操の眼前に飛び出した者がいた。

 

許褚である。

 

許褚は、その怪力で両腕に鉄盾を掲げ、曹操を庇って矢の雨を防いだ。

 

悪来・・・いや、虎痴か!」

 

巨体の肩に矢が突き刺さる。

 

典韋ぃ、おめぇの分まで、おいら頑張るだよ!」 

 

許褚は脚を踏ん張り、そのまま手に持つ武具を次々と放り投げ応戦した。

 

追撃は苛烈であったが許褚の勇戦は凄まじく、全身に傷を受けてなお奮い立ち追手の西涼軍を見事に撃退する。

 

 

 

曹操・・・!今一歩と迫りながら、あの豪傑に阻まれたか!」

 

馬超は岸から騎馬を嘶(いなな)かせ、漕ぎ出して死地を脱した曹操の舟を遠く見やった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

渡河した先で合流した曹操の下へ、徐晃が馳せ参じる。

 

曹操殿、御身の危地に駆け付けること能わず申し訳ござらぬ」

 

「大事ない、徐晃

先に渡河して拠点を築き、敵を討ち破った大功見事よ!」

 

戦塵にまみれた鎧を払い、髪を掻き上げて曹操は悠然と応える。

 

 「我が危機は、許褚が身を挺して救ってくれたわ。

許褚、おぬしはまこと我が樊噲よ」

 

「はんかい・・・?」

 

許褚は傷だらけの巨体に見合わず穏やかな表情で、疑問を浮かべる。 

 

徐晃は自然と許褚に近寄り、口添えをした。

「許褚殿、樊噲とは古の猛将でござる。

漢の高祖・劉邦に仕え、その危地を幾度も救い申した。

曹操殿は最大級の賛辞を以って、許褚殿の勇戦を讃えておられますぞ」

 

「うへえ・・・おいら、そんなすごくねぇだよ・・・けど曹操様、ありがとうなぁ」

 

許褚は恐縮する。

 

照れくさそうに空を見上げると、戦場に似つかわず美しい蒼天が広がっていた。

 

・・・今は亡き典韋もまた、古の豪傑・悪来の名を以って曹操に讃えられていたか。

 

先に逝った友を思い、許褚はその遺志を継ぎ乱世を生き抜く決意を新たにした。

 

 

 

 

 

徐晃伝 三十二 終わり

 

 

徐晃伝 三十一『背水の陣』

 

「ソイヤッ!ソイヤッ!!」

 

騎馬の疾走。

 

徐晃率いる一隊は、北方の黄河を渡るべく戦場を駆け抜ける。 

風の如く馳せる軍団の中で、副将・朱霊は徐晃に問うた。

 

徐晃殿。

我ら四千騎、精兵といえども渡河中は無防備。

襲撃を受けたらひとたまりもないのでは?」

 

朱霊も、また曹操でさえも、本作戦での渡河の成否を最も案じている。

しかし徐晃には難なく河を渡れる自信があった。

 

騎馬を走らせ、徐晃が答える。

 

「朱霊殿のご懸念はごもっとも。

されど敵将の韓遂殿は智恵が回り、しかも慎重な御仁でござる。

 

我らが少数で渡河しては伏兵を警戒し、簡単に仕掛けては来られまい。」

 

潼関の守りを固める涼州連合軍からすれば、陽動に乗って誘い出され曹操軍の包囲を受ける事態こそ最も恐れる。

ゆえに、敵は徐晃隊の渡河に手が出せない。

 

徐晃の戦術眼は広かった。

 

「・・・むしろ襲撃するなら黄河を渡り終えた後。

我らが曹操殿の本隊と離れ、河を背にして退路を失くした機に攻めてこよう」

 

 

「いやはや、さすがのご慧眼よ徐晃殿!

 蒲阪津(ほはんしん)の先に敵の伏兵があると見られるか」

 

「左様。

ゆえに朱霊殿、貴公の出番でござる。

渡河後は隊を二手に分かち、拙者が一隊を率いて蒲阪津に陣を設営いたす。

これを囮とすれば・・・おそらく夜襲がござろう。

敵が仕掛けて来たのち、合図とともに貴公の率いる一隊にこれを破って頂きたい」

 

 

こうして徐晃と朱霊の軍団は、堂々と河を渡った。

 

予想通り渡河中、敵の攻撃を受ける事はなかった。

 

 

 

黄河西岸へ上陸し拠点の構築を開始する。

 

 

 

 

 

その夜、徐晃の陣を火矢の雨が襲った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

「敵襲ーーーっ!!」

 

ジャーンジャーンと銅鑼の音が響き、陣営は慌ただしく迎撃態勢に移る。

 

涼州連合軍の将・梁興(りょうこう)が高々と名乗りを上げて、兵五千を率いて徐晃の陣に夜襲を仕掛けた。

 

 

渡河の労を終えたばかり、兵達は突然の襲撃に動揺する。

しかも、退路がない。

 

前には敵、背には河が広がっている。

 

「ど、どうしたらいいんだ・・・!」

 

士卒は武器を取るも、兵達の顔に疲労と絶望の色がにじむ。

 

 

 

 

その時。

 

白頭巾と蒼い鎧を身にまとった徐晃が、大斧を掲げて檄を飛ばした。

 

「皆、奮い立つのだ!!

背後には河、退けば溺れ死ぬのみ。

生き残りたくば敵を討ち、前へ進むのだ!

活路は前にござる!!」

 

 

「ソイヤッ!!」

 

徐晃は単身敵軍に斬り込み、強堅な体幹から大斧をブンブンと振り回して次々と敵を薙ぎ払う。

 

兵達は背後の暗く深い河から、前へ向き直る。

至極の武を奮い前へ前へと進む徐晃の雄姿を見て、状況を理解した。

 

「「う、うおおおおお!!!」」

 

生き残りたくば、前へ。

 

兵達の顔に決意が宿り、皆熱く渾身の勇を漲らせて武器を取る。

 

「将軍に続け!かかれーっ!」

 

隊の士気は一気に最高潮に達した。

 

 

夜襲が成功したにもかかわらず思わぬ反撃を受けて、敵方の梁興隊はむしろ勢いが死んだ。

 

「なんだ・・・!?

こいつら、なぜこんなに士気が高い!?」

 

 動揺が広がる。

 

 

 

徐晃は、将。

 

 

戦場の、この一瞬の気の転換を見逃さない。

 

「朱霊殿、今でござる!」

 

 

ドンドンドンと合図の太鼓が打ち鳴らされ、すぐに、敵軍の背後からドドドドドと騎馬隊の猛突が襲う。

 

 

「敵か!?一体どこから!」

 

将・梁興は騎馬を翻し、背後に敵、前に敵、すべて徐晃の手の内で泳がされていた事を悟る。

 

「お味方でござる!

皆、一気に押し返すのだ!!」

 

 

形勢は逆転した。

 

こうなれば、もはや勝敗は歴然である。

 

 

 

「おのれ・・・!」

 

「ソイヤッ!!」

 

一瞬動じた隙を逃さず、梁興の眼前に徐晃の大斧が襲い掛かる。

 

「ひぃっ!」

 

梁興は落馬し槍を落として、副将に庇われ命からがら逃げ出した。

 

「退け!退けーっ!」

 

 

~~~~~~~~~~~~ 

 

「皆、よく戦い申した!

勝ち鬨を上げよ!!」

 

 

梁興軍は敗走し、徐晃と朱霊の軍団は快勝を収めた。

 

 

この活躍で曹操軍は黄河西岸に拠点を獲得し、後背を脅かされた涼州連合軍は戦略的優位を失う。

膠着していた潼関の戦いは徐晃の一手で動き出し、新たな局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 徐晃伝 三十一 終わり

 

 

 

徐晃伝 三十『敵の虚を突く』

 

北の曹操、東の孫権、西の劉備

 

天下は、いよいよ三国鼎立の情勢を迎えようとしていた。 

 

 

さしあたって南方への進退が膠着した曹操軍は、天下平定のため次なる目標を西方の漢中に定める。

 

漢中は中原の要衝。

徐晃をはじめ、曹操軍の諸将兵は漢中侵攻の戦支度に精を出していた。

 

急報は、そんな中突如もたらされる。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~ 

 

西涼の豪族・馬騰(ばとう)。

西方の山岳民族、羌族の血も入り混じる精強無比な騎馬隊を主力として、涼州西域の荒原地帯を治める一代の武傑である。

 

徐晃も若かりし頃、李傕軍楊奉隊麾下で馬騰の軍団と交戦し、その猛威を直に味わった経験があった。

 

漢王朝の忠臣として正義に燃えるこの男は、しかし今、許昌郊外に捕らわれ曹操の眼前で最期を迎えようとしている。

 

「漢室に仇なす逆賊、曹操ーっ!

貴様を討たずして果てるとは・・・この馬寿成、生涯の不覚!

だが我が息子・馬超が必ずや貴様に正義の鉄槌を下すであろう!」

 

 「馬騰よ、貴様のように蒙昧な輩が乱世を深めるのだ。

我が覇道の前に滅びるがよい・・・斬れぃ!」

 

馬騰による曹操暗殺の計画は事前に看破され、彼は首謀者としてその子、馬休・馬鉄はじめ一族郎党と共に処断に付された。

 

ただ馬岱だけが唯一、死地を生き延びて涼州へ逃げ帰り、馬騰の長男・馬超に事の顛末を告げる。

 

 

報せを聞いて馬超は、激しく哭いた。

 

「父上ーーーっ!休!鉄!!

う、うおおおお・・・!!!」

 

曹操の苛烈な制裁に、馬超は泣き叫び床を打って、拳から血が流れても殴り続けた。

 

「若・・・!」

 

馬超の腕を抱き止める馬岱だが、掛ける言葉が無い。

 

 

 「おのれ曹操・・・!

一族の無念、必ずや俺が晴らしてくれよう!」

 

復讐の鬼と化した馬超は、志を同じくする涼州の諸豪族と同盟し、反曹操の連合軍を決起した。

 

勢いに乗る連合軍は快進撃を続け、関中の要塞・潼関に陣を構えて、曹操軍を迎え撃つ。 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

馬超が率いる涼州兵は強かった。

 

曹操軍の先発隊は潼関を巡る攻防で惨敗を喫し、多くの被害を出した。

 

やがて曹操が自ら本隊を率いて潼関の東に陣を布く。

 

「・・・さすが西涼の兵は精強よな。

ましてや潼関の狭隘を固められては、我らが大軍の利を活かせぬ」

 

北には黄河、南は山険が横たわり、潼関を挟んで進軍の路(みち)を塞いでいる。

 

正面突破を図る他ないが、初戦に勝利した涼州の軍馬は士気が高い。

これに真っ向から当たるは厳しい戦況であった。

 

 

曹操は、険しい表情を浮かべて唇を噛む。

 

(一刻も早く、漢中を統べねばならぬというに・・・)

 

 

 

その時、重苦しく難渋する軍議の席に、一人の将が精悍な声を上げた。

 

徐晃である。

 

「敵の虚を突き、北に黄河を渡ってはいかがでござろうか。

蒲阪津(ほはんしん)の先に拠点を築けば、潼関の背後を脅かす事ができ申す」

 

諸将にどよめきが広がり、軍議の席はにわかに活気づいた。

 

 

曹操が言う。

 

「・・・確かに、黄河を抜ければ戦況は覆せるやもしれぬ。

だが敵前での渡河には危険が伴う・・・可能か、徐晃よ」

 

 

 徐晃は拱手し、はっきりと答えた。

 

「可能でござる。

拙者に、策があり申す。

兵馬をお預け頂ければ、必ずやかの地を落としてご覧に入れましょう」

 

 

曹操の表情は晴々と威厳を取り戻し、その口元に浮かべた笑みを隠さずに言った。

 

「頼もしいぞ徐晃よ!

おぬしに任せよう。

見事この難局を打破してみせよ!」

 

 

将・徐晃は兵馬四千の精鋭を預かり、潼関の北へ黄河を渡るべく進軍を開始した。

 

 

 

 徐晃伝 三十 終わり