無双OROCHIシリーズに登場する妖魔軍武将の出典まとめ⑤
※前回の④で妖魔軍武将全60体記載済みと致しましたが、OROCHI3で何気に増えてたので追加しました。今回の記事含め、全72体となります。失礼致しました。
温羅(うら)
「吉備冠者(きびのかじゃ)」「鬼神」または温羅(おんら)とも。
吉備国外から渡来して製鉄技術をもたらし、鬼ノ城(きのじょう)を拠点に一円を支配した。
身長は四メートルを超え怪力無双で、両眼は虎狼、赤い髪と髭が炎のように伸びた恐ろしい異貌と伝わる。
『日本書紀』に引く崇神天皇の四道将軍の一人・吉備津彦命(きびつひこのみこと)が派遣され、温羅を討伐して吉備を平定したという。
温羅の伝承は吉備津神社、吉備津彦神社の縁起などに散見され、天正年間の『備中吉備津宮勧進帳』、江戸時代に賀陽為徳が著した『備中国大吉備津宮略記』に記述が見られる。
吉備津彦命による温羅討伐は、桃太郎の鬼退治伝説のモチーフになったとも言われている。
怪火(かいか)
原因不明の火球が現れる怪奇現象の総称。
日本では、江戸時代の『和漢三才図会』に引く青白い火の玉が空中に浮かぶとされる鬼火、鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』に描かれる不知火(しらぬい)や人魂、狐火など数多くの伝承がある。
現世を彷徨う死者の霊や妖怪の仕業とされ、また世界各地に類似の事例が存在する(欧州のウィルオウィスプやジャックオーランタンなど)。
青森県津軽地方に伝わる死者の霊魂「亡者火(もじゃび)」も怪火現象の一種である。
手洗鬼(てあらいおに)
江戸時代の奇談集『絵本百物語』に登場する巨人。
曰く三里(約12km)もの距離の山々を一股に跨いで、巨大な上半身を倒した態勢になって海で手を洗う。
ダイダラボッチ(日本各地に伝わる巨人信仰)の一種とされる。
妖怪研究家・村上健司の調査によると、手洗鬼の伝承は『絵本百物語』以外の文献では確認されていない。
しかし讃岐国(香川県)において巨人が飯野山と青野山を跨いで瀬戸内海の水を飲んだという伝説が存在し、それが元となって手洗鬼に変じたという解釈が出来る。
塗壁(ぬりかべ)
日本の妖怪。
本来は九州北部の伝承で、夜道を人が歩いていると突然見えない壁のようなものに阻まれて進む事が出来なくなる、という現象を示した。
昭和初期に民俗学者の柳田國男が民間伝承を蒐集したが、一部地域に限定されるもので比較的知名度は高くなかった。
しかし1960年代、妖怪漫画家の水木しげるが『ゲゲゲの鬼太郎』において主人公の仲間として「ぬりかべ」を描いた事から広く一般に周知される(大きな壁に目と手足が付いたキャラクター像は水木しげるの創作)。
また民俗学者・湯本豪一によると、江戸時代の妖怪絵巻『化け物尽くし絵巻』に描かれる三つ目の巨大獅子について、アメリカ・ブリガムヤング大学図書館所蔵の妖怪画『化物之繪』との照合の結果これが「ぬりかべ」という名である事が判明した(一方で京極夏彦、多田克己、村上健司ら妖怪研究者達はこの三つ目の「ぬりかべ」と伝承上の塗壁とが同一であるかについては不明と評している)。
風狸(ふうり)
中国の妖怪。
風生獣(ふうせいじゅう)、風母(ふうぼ)、平猴(へいこう)とも。
明代の類書『本草綱目』に曰く、たぬきやカワウソのような大きさの赤目・黒模様・青毛を有する獣で、夜になると木々や岩の合間を鳥のように滑空する。
その身体には刃が通らず火でも焼けず、一度死んでも風を受ければ生き返るという。
日本では江戸時代の『和漢三才図会』や鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』、葛飾北斎の画集などに広く記述が見られる。
網剪(あみきり)
網切とも。
エビのような長い身体に蟹やサソリのようなハサミを持つ。
解説文が無く、石燕の創作妖怪とも言われるが詳細は定かでない。
江戸時代・寛保年間の説話集『諸国里人談』などに登場する人間の髪を切る妖怪・髪切りとの関連も想起される。
妖怪研究家の多田克己によれば、網(あみ)と小型甲殻類のアミ(糠蝦)をかけた言葉遊びにより造られたものとする解釈もある。
一目連(いちもくれん)
暴風を司るという日本の妖怪・神。
『日本書紀』『播磨国風土記』に見られる天目一箇神(あめのまひとつのかみ)と同一視され、『古事記』においては天津麻羅(あまつまら)と呼ばれる鍛冶の神である。
名は一つ目の意味であり、隻眼の製鉄神として信仰を集めた(ギリシャ神話における一つ目の巨人サイクロプスも鍛冶の神という共通点がある)。
民俗学者・柳田國男によると、江戸時代に伊勢湾を航行する船乗りが湾から見える多度山の様子で天候を判断した事から、多度大社(一目連神社)の祭神・天目一箇神に海難防止の御利益・信仰が生じたと考察している。
『和漢三才図会』には一目連が神社を出て暴れると暴風が起こるとする記述が見られる。
後眼(うしろめ)
後頭部に眼が一つだけあり、一本指の鋭い爪を持つ異形の妖怪。
江戸時代の尾田郷澄による妖怪絵巻『百鬼夜行絵巻』に描かれている。
また同時代の絵巻物『百物語化絵絵巻』にも同じ特徴で「親にらみ」という名の妖怪が登場する。
出典は『和漢三才図会』や『異国物語』に記述されるよう、中国の伝説上の異人種で後眼(こうがん)国に棲むとされる後眼人である。
葛飾北斎の画に後眼(こうがん)と説明される中国異民族風の、後頭部に一つ目がある弓手が描かれている。
髪鬼(かみおに)
鳥山石燕の妖怪画集『百器徒然袋』に登場する妖怪。
鬼髪(きはつ)とも。
人間の女性の怨みや嫉妬の念が頭髪に憑き、妖怪と化したもの。
髪がどんどん長く伸びて鬼の角のように逆立つ。
長く伸びた髪をいくら切り落とそうと際限なく伸び続けてしまうという。
妖怪研究家の村上健司によると、古来より人間の頭髪には不思議な力があると信じられ、その伝承を元に石燕が創作した妖怪ではないかと解釈される。
縊鬼(くびれおに)
中国と日本に伝わる妖怪。
人に取り憑いて首吊り自殺をさせようとする。
中国では縊鬼(いき)と呼ばれ、宋代の類書『太平御覧』や清代の小説集『聊斎志異』に記述がある。
伝承によると冥界の亡者は、魂が転生するために生者を自分と同じ死に方で冥界へ迎えねばならず、そのため縊死した死者が生者に取り憑いて首吊りをさせようとするものが縊鬼である。
日本では江戸時代の奇談集『絵本百物語』に「死神」として同様の特徴が記述され、やがて水死者の霊であり生者を川へ引き込むという怪へと変遷していった。
白蔵主(はくぞうす)
日本の妖狐、稲荷神。
南北朝時代、和泉国の少林寺に白蔵主という名の僧がいて、稲荷大明神を厚く信仰していた。
ある時、竹林で三本足の白狐と出会い、これを連れ帰って可愛がった。
白狐には霊性があり、吉凶を告げたり泥棒を防いだりしたという。
白狐は人間である白蔵主にも化ける事が出来た(これを由来に、妖狐が法師に化ける事を白蔵主と呼ぶ)。
狂言の題目『釣狐』の元になり、また江戸時代の奇談集『絵本百物語』にも登場している。
京都大徳寺の龍源院には、日本画家・鈴木松年による『白蔵主と月にむら雲』と題する屏風が収められ、一般公開されている。
異獣(いじゅう)
江戸時代の書物『北越雪譜』に登場する謎の獣。
同書は商人・鈴木牧之による越後国(新潟県)魚沼での雪国生活を活き活きと描写した書物である。
曰く、大きな荷物を背負った商人が峠で休んでいると、毛むくじゃらの猿にも似た奇妙な生き物が現れた。
物欲しそうにするのでお弁当を分けてあげると、喜んで食べ始め、その後出発しようとすると獣は荷物を担いで道を先導してくれた。
おかげで商人は、雪山の難路を苦も無く踏破する事が出来たという。
遺念火(いねんび)
沖縄に伝わる火の妖怪。
因縁火(いんねんび)とも。
遺念とは亡霊を指す沖縄の言葉で、伝承によると非業の最期を遂げた男女・心中した夫婦などの無念が火となって現れるという(柳田國男『妖怪名彙』より)。
鬼熊(おにくま)
日本の妖怪。
木曽谷(長野県)に伝わる巨大な熊。
江戸時代の奇談集『絵本百物語』に描かれ、大きなツキノワグマに似た姿をしている。
夜更けに里に下りて牛馬を引きずり出して喰らう。
非常な怪力で、十人掛かりでも動かない大岩を軽々と動かし、掌で押しただけで獲物は死ぬ。
享保年間に猟師たちが大罠を用いて仕留め、その毛皮を拡げたところ畳六畳分にもなったという(伝承を見る限りは妖怪というより、熊そのものにも思える。北海道では巨大なヒグマを鬼熊と呼んで恐れたと言われる。昔の人にとって熊は、妖怪や化け物のようにとんでもなく恐ろしい存在であったという事か(もちろん現代人にとっても依然恐ろしい)。ヒグマの脅威については大正年間の三毛別羆事件を描いた吉村昭『羆嵐』に詳しく描かれている)。
影鰐(かげわに)
鰐(わに)は爬虫類のワニでなく、鮫(さめ)を指す。
水面に映った船乗りの影を飲み、影を奪われた者は必ず死ぬという。
江戸時代の奇談集『絵本百物語』には、肥前国(佐賀県)の近海に出没し棘だらけの尾で船を転覆させ、海に落ちた者を喰い殺す「磯撫で(いそなで)」という怪魚が描かれ、影鰐はこれと同種であると言われる。
妖怪研究家・多田克己によると、これらは想像上の怪物でなく、実在のシャチの事ではないかという解釈もある。
江戸時代の歌川国芳の浮世絵に見られる鰐鮫は、吉備国(岡山県)の「悪樓(あくる)」と似た姿で描かれている。
塗仏(ぬりぼとけ)
日本の妖怪。
真っ黒な身体の坊主姿で、目玉が飛び出している。
江戸時代の画家・佐脇嵩之の『百怪図巻』、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』など多くの妖怪絵巻に描かれる。
図画に解説が無く詳細は不明だが、石燕の絵では仏壇の中から現れている描写がある。
この事から民俗学者・藤沢衛彦の『妖怪画談全集』では「器物精霊としての塗仏の怪」と解釈され、仏壇を綺麗にしていない家の人々を驚かせる妖怪として表現されている。
野衾(のぶすま)
日本の妖怪。
イタチのような姿で、左右に「羽のようで羽でない」特徴を持ち、空を飛ぶ。
江戸時代の奇談集『絵本百物語』によれば、長い年月を経たコウモリが妖怪化したものとされ、またの名を飛倉(とびくら)とも呼ばれる。
鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』には「野衾は鼯(むささび)の事なり」と記され、妖怪研究家の多田克己曰く実在のムササビやモモンガそのものが珍しさ故に妖怪視されたとする解釈を挙げている。
狒々(ひひ)
日本の妖怪。
猿を大型化したような姿で、年老いた猿が変化したものとも。
鳥山石燕『今昔画図続百鬼』等に描かれ、民俗学者・柳田國男が『妖怪談義』にてその特徴を論じている。
出典は中国の妖怪で、類書『爾雅(じが)』や地理書『山海経(せんがいきょう)』に狒狒(ひひ)の記述がある。
明代の類書『本草綱目』にも記述が見られ、身長は一丈(約3m)、身体は黒い毛で覆われ、人を襲って喰らうとある。
サル目オナガザル科ヒヒ属の哺乳類の和名「ヒヒ」は、この妖怪を由来としている。
終わり
【参考文献】
・ 『妖怪事典』村上健司、 毎日新聞社
・『江戸の妖怪絵巻』湯本豪一、光文社
・『図説 地図とあらすじで読む 日本の妖怪伝説』志村有弘、青春出版社
・『幻想世界の住人たち』多田克己、新紀元社