吉川英治『三国志』における徐晃まとめ①
■(三)草莽の巻
◎初登場
中でも徐晃は、火焔の如き大斧を奮って追手を蹴散らし、獅子奮迅の働きで見事帝を守り奉った。
◎李楽を討つ
逃避行に窮する帝より征北将軍の号を賜わった山賊の李楽は、いよいよ増長し、不敬専横極まる振る舞いで帝に害を成す。
混戦の中、楊奉から「堪忍袋の緒を切ってもよいぞ」と命じられた徐晃は、雷声一撃!
大刀の下に見事李楽を両断した。
◎許褚 対 徐晃
万夫不当の豪傑・許緒がこれを阻む。
両雄は激突し、撃ち合うこと五十余合!
『すばらしい生命力と生命力の相搏つ相は魔王と獣王の咆哮し合うにも似ていた。またそれはこの世のどんな生物の美しさも語るに足りない壮絶なる「美」でもあった。』
「私に仰せつけください」と名乗り出たのは、満寵であった。
◎良禽択木
夜、満寵は一人敵地へ潜入し、徐晃の陣を訪れる。
思わぬ旧友との再会を懐かしむ徐晃であったが、満寵は本題を切り出した。
『なぜ、御身ほどな勇士が楊奉の如き、暗愚な人物を、主と仰いでおられるのか、人生は百年に足らず、汚名は千載を待つも取返しはつきませんぞ。良禽は木を選んで棲むというのに』
◎曹操の下へ
楊奉軍の幕舎を脱した徐晃と満寵は、追手を退け、曹操の陣へ辿り着く。
望み通り徐晃を得た曹操は、「近来、第一の歓びだ!」と語った。
無事帝を擁して許昌へ至った曹操は、勇将・徐晃を校尉に叙した。
■(四)臣道の巻
◎下邳の戦い
その厳重な包囲網の中に徐晃もいた。
内応者が呂布を縛めて門を開き、いよいよ落城の折である。
「南門を、死場所に」と防戦に努めていた呂布軍の参謀・陳宮は、勇将・徐晃に出会って、ついに生け捕りとなる。
◎禰衡の評
奇弁畸行の学者・禰衡は、曹操軍に人無しと嘯く。
それに対し曹操は麾下の人材を褒め上げ、うち徐晃は「古の岑彰、馬武にも勝る器量を備える」と讃えた。
しかし禰衡は曹軍の人材を悉く貶し尽くす。
『満寵には、酒糟でも喰らわせておき、酒樽のタガを叩かせておくとちょうどいい。徐晃は、狗ころしに適任だ。』
◎小沛急襲
董承らが企図した曹操暗殺計画は、密告により失敗に終わる。
義盟の連判状の中には、徐州を与えられていた劉備玄徳の名もあった。
◎関羽の投降
追い詰められた関羽は張遼の説得を受け、三つの条件を掲げて曹操軍に投降した。
彼一人のため曹操軍はただおののき恐れて見えたが、その時、
兵らは期待し、どっと生気を蘇らせる。
『いま、中軍の一端から、霜毛馬にまたがって、白炎の如き一斧をひっさげ、顔良目がけて喚きかかった勇士がある。これなん曹操の寵士で、また許都随一の勇名ある弱冠の徐晃だった。』
両雄は七十合にも渡って撃ち合い、しかし、決着は付かなかった。
続く延津の戦いでは、猛将・文醜が剛勇を奮った。
『徐晃が得意の得物といえば、つねに持ち馴れた大鉞であった。みずから称して白焔斧といっている。それをふりかぶって文醜に当って行った。』
撃ち合うこと三十余合。
徐晃は弱冠ながらも曹幕の一驍将として、袁紹軍の勇士と堂々渡り合った。
■(五)孔明の巻
◎関羽との離別
冀州に劉備玄徳ありの報を受けて関羽は、かねての約定通り曹操の下を去る。
曹操は六、七騎の腹心のみ連れて覇陵橋で関羽を見送るが、この中に徐晃の姿もあった。
徐晃は諸将らと並んで大隊の一つを率いる。
捕虜の情報から袁紹軍の兵糧部隊を発見した徐晃は、急襲して火攻めを仕掛ける!
莫大な兵糧が燃え盛り、空を赤く焦がした。
さらに追撃して来た張郃・高覧の両将を誘い込み、張遼・許褚の後詰めと合流してこれを敗走させる。
曹操はこれを褒め称えるが、
『いやご過賞です。』
あくまで謙虚な姿勢を崩さない。
◎袁家討伐
官渡で大敗した袁紹はやがて病死し、子の袁譚・袁尚らが後継者争いを始める。
曹操はこれに乗じて袁家討伐の兵を挙げ、張遼、許褚、徐晃、于禁らの軍が北へ攻め上がる。
■(六)赤壁の巻
◎十万本の矢
夜半、曹操軍の水寨に突如呉の船団が接近した。
不寝の番をしていた徐晃、張遼は曹操へ報告し、命を受けて射手三千人の弩弓隊に矢の斉射をさせる。
しかしこれこそ諸葛孔明の策だった。
のべ十万本の矢を頂いた藁の船団は、夜霧に紛れて逃げ去った。
◎紅旗船団
ついに進撃する曹操軍の大船団。
前列の船団はすべて紅旗を檣頭に掲げ、この一団の大将には徐晃が選ばれた。
この一戦は水上に利がある孫権軍に圧倒されるが、周瑜の負傷を機に両軍が退却する。
■(七)望蜀の巻
◎赤壁逃避行
わずか二十騎ばかりで落ち延びる曹操の背後に呉の呂蒙・淩統が迫る。
死を覚悟した曹操の眼前に、一手の兵馬が現れた。
徐晃は呂蒙・淩統の軍を蹴散らし、敵中で苦戦する張遼を助け出す。
以後、両将は道中、執拗な孫権・劉備連合軍の追撃に対し善戦し、曹操を良く守り切った。
◎文武競春
春。
鄴の銅雀台は足掛け八年に渡る大工事の落成を告げていた。
盛大に祝い、曹操は武官に弓馬の腕を競わせる。
諸将が弓矢の妙技を奮い、最後に徐晃が柳の枝を見事に射抜いて、褒美の紅袍を手に入れた。
『丞相の賜物、謹んで拝謝し奉る』
しかし許褚がこれに飛び掛かり、両雄は引っ組んで相撲を取る。
恩賞の袍もこのためズタボロになってしまうが、曹操は笑って「武芸の励み、見届けた」と皆に一袍ずつ、改めて褒美を与えた。
続く
【参考文献】