徐晃伝 十三『将』
乱世の統一を急ぐ曹操は、時として彼に反する者や愚鈍な者に対して苛烈だった。
全ては、混迷の乱世を終わらせるため。
だが仁の人・劉備にとって曹操の非情な在り方は受け入れられなかった。
共に乱世の終焉という大志を同じくしながら、二人の英雄は決別する。
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曹操暗殺計画が露見する。
暗殺は未然に防がれ首謀者の董承は処刑されたが、この計画に賛同した者の名に劉備もあった。
曹操軍は精強で、反乱軍は忽(たちま)ち壊走し劉備は生死も知れず行方不明、軍勢として残ったのは関羽が率いる一隊だけだった。
曹操の大軍に包囲され、もはや活路は無い。
「関羽・・・その忠節と武勇、ここで死なすにはあまりに惜しい」
張遼が言う。
「関羽殿とは共に武を磨く者として、交誼を結んだ間柄。
こちらへ降るよう、私が説得して参りましょう」
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関羽は偃月刀を構え、大喝する。
「拙者の武、義兄・劉玄徳の大志に殉じる覚悟。
曹操殿には決して降らぬ!
張遼、もはや語るに及ばず。
この期に及んでは互いの刃を合わすのみ!」
「待たれよ!今戦っても、関羽殿に勝ち目はござらぬ。
ここで命を無駄にして劉備殿との誓いを破る事が、その大志の為になるのか!?」
張遼は誠を尽くして説得した。
その熱意に、関羽はついに降伏を決す。
「張遼、我が友よ。
お主の誠意はしかと受け取った・・・感謝する。
そして我が義兄・劉玄徳の所在がわかり次第、すぐにお暇(いとま)仕(つかまつ)る」
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袁紹との決戦が迫っていた。
華北四州に君臨する漢室の名門・袁紹の勢力は、今や曹操と中原を二分し相容れず、情勢は雌雄を決す大戦に至ろうとしていた。
徐晃はこの大戦で最重要の任に抜擢される。
官渡決戦の橋頭保、前線の白馬・延津攻略の将に任命されたのだ。
「拙者、いまだ曹操殿にお仕えして日も浅く、武芸も未熟千万なれど、このような大役を仰せつかり光栄でござる。
必ずや任を果たして参る所存!」
「徐晃よ!
お主の戦は兵法の理に適(かな)っている。
柔よく剛を制し、敵の強きを避け弱きを突く。
その用兵は古(いにしえ)の兵家・孫武にも勝るぞ!
我が麾下の将士を良く率い、お主の武を存分に奮うがよい」
軍師・荀攸も檄を飛ばす。
「白馬・延津は戦術上の重要拠点。
ここを制すか否かで本大戦の趨勢(すうせい)が決します。
徐晃殿、宜しくお願いします」
軍営の篝(かがり)火が照らす中、諸将の期待を一身に受けて、徐晃は拱手(きょうしゅ・拳を手のひらで包む動作)し恭しく礼し、曹操から軍権を預かった。
いまだ未熟な拙者が指揮を執ること恐縮至極にござるが、何とぞ宜しくお頼み申す!」
「何を申されるか徐晃殿。
貴殿の用兵たるや見事!
拙者とて貴殿の指揮の下でこそ、存分に武が奮えようぞ」
関羽は偃月刀を、張遼は双戟を、徐晃は大斧を担ぎ出陣の鬨を上げる。
夜明けと共に長駆直入、徐晃隊は一気呵成に白馬砦に攻め掛かった。
官渡決戦の火蓋が、ここに切って落とされた。
徐晃伝 十三 終わり