徐晃伝 十一『武人張遼』
先の張繍との戦乱、そして寿春の名族・袁術との戦いでも、獅子奮迅の活躍を見せる。
「参る!」
将として兵を率いながら、自らも巨大な斧を奮って次々と敵を薙ぎ倒す。
常人には持ち上げる事すら困難な重量だが、徐晃は強堅な体幹で軸を形成し、この大斧の重みを活かして遠心力を巧みに用い、ブンブンブンと円旋を描く軌道で必殺の連撃を見舞う、この特徴的な回転殺法を得意とした。
「敵将、徐公明が討ち取り申した!」
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姓は張、名は遼。字は文遠。
呂布軍配下の将である。
卓越した技量で双戟を巧みに奮い、ただひたすら真の武を目指して戦いに明け暮れていた。
わき目も振らず徹底的に武の求道を成す生き様は、厳格にして苛烈。
清廉と俯瞰を基底とする徐晃の武とは、通じる道もある反面まったく異なる貌も覗かせた。
裏切りを繰り返す呂布のような男を主君と仰ぐのも、当代最強と謳われるその傑出した武を間近に見、盗むためである。
「邪魔だァーーー!!」
次々と兵を薙ぎ倒し、本陣に迫る。
「徐公明、参るッ!」
打ち合う事、数十合。
張遼の額に汗が流れる。
「守りの型か・・・やりづらい」
張遼は苛烈に双戟を振るい攻め立てるが、そのことごとくを徐晃は大斧を巧みに廻して受け流す。
かと思えば、ブォォオン!
受ければ即ち致命傷となる大斧の重厚な一撃が、咄嗟に飛び退いた張遼の眼前を横切った。
「ただ守るだけの型でない、巧みに受け流し、機を見れば一気に攻めへと転じる・・・!
この武、只者ではあるまい」
徐晃も徐晃で、張遼の戟捌きを受けるたび、その苛烈な攻めに腕が痺れた。
「なんという荒々しき武よ・・・!
さすが呂布軍の将、その暴を征く武の性質は苛烈!」
「兵が勢いを失った・・・これ以上は深入りとなる。
退け、退けい!」
さすが張遼も一軍の将、退き際はわきまえている。
その後、軍師荀攸・郭嘉 の策で下邳城は水攻めに落ち、最期は部下の裏切りで呂布が捕縛され、曹操の眼前に引き出された。
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「おのれ!離せ、離せーっ!
この呂奉先に縄を打つなど、許さんぞっ!!」
「見苦しいぞ呂布殿!貴公の武が泣くぞ。
将たる者、最期まで凛とあられよ・・・」
その一言が、曹操の耳にとまった。
今だ何者でもない。
これよりはこの曹孟徳の将として、その武の行き着く先を見極めよ」
思いがけぬ招致、同時に己の虚無的核心を突かれて神妙に座す他なかった。
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一方、不義と裏切りの生涯を閉じる呂布の頭上には、白刃が光る。
徐晃は眼を背けた。
「最強の武と謳われながら、その本質は"暴"。
このような末路は、拙者の目指す武の頂きではござらぬ」
呂布は下邳に散った。
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「張遼殿、拙者も元は降将でござる。
曹操殿は元の立場や出自に依らず、ただ能力と才幹をもって人を量られる。
戦場でまみえた貴公の武、お見事でござった。
これからは共に戦う仲間として宜しくお頼み申す」
「おお、徐晃殿・・・!御心遣い痛み入る。
戦場での貴公の武には、私には無い強さをしかと感じた。
どうかこれよりは徐晃殿の武に、学ばせて欲しい」
二人は、その手を固く握り合った。
「張遼殿、それは拙者とて同じでござる。
共に曹操殿の大志を支え、武の頂きへと駆け昇らん!」
かつて敵味方として刃を交わした徐晃と張遼は、こうして友となった。
徐晃伝 十一 終わり