源太左衛門~真田六文戦記~

『源太左衛門~真田六文戦記~』第六文銭(最終話):硝煙設楽ヶ原

天正三年五月二十一日、早朝― 朝靄(あさもや)の霧掛かむ設楽ヶ原(したらがはら)の草野に、源太は立つ。 ブヒヒィィン!! 騎馬の嘶(いなな)き。 手綱をグイと握り佇む様、精悍堂々たる武者振りよ。 精鋭武田が騎馬軍団は横列一帯に陣を成し、命運決す其の時…

『源太左衛門~真田六文戦記~』第五文銭:暗雲高天神

―巨星、墜つ。 武田法性院信玄、逝去。(享年五十二) 一月末、行軍中に体調を崩した武田信玄は病床に倒れ、そのまま、帰らぬ人となった。 元亀四年春、先の三方ヶ原合戦からわずか四ヶ月後の事である。 「・・・御屋形様っ!」「うぐぅ・・・おぉ・・・御屋…

『源太左衛門~真田六文戦記~』第四文銭:寒風三方ヶ原

山が動いた! 其の動かざること山の如し、幾十数年にわたり不動明王の如く日ノ本中央(フォッサマグナ地帯)に堂々鎮座せし武田大膳大夫信玄入道は、元亀三年九月、遂に、上洛の大兵を起こした! すなわち全戦力を以って京都を征圧し、統治・君臨して天下を…

『源太左衛門〜真田六文戦記〜』第三文銭:疾風三増峠

「シ・ン・ゲ・ン・ボウズがァァアアアーーーッ!!!」 ブチギレている。 怒髪衝冠極まりて、書状をビリビリにブチ破りながら、凄まじき形相にて叫んだ。 この容貌魁偉なる大殿は、北条左京大夫氏康。 関東八大国に君臨する覇者・北条一族を束ねる大大名で…

『源太左衛門~真田六文戦記~』第二文銭:潮風薩埵峠

真田一族には先祖代々、二極の性質が兄と弟に相分かつ。すなわち武勇の血と、智略の血である。源太の父・一徳斎は智略の将、その弟・源之助頼幸の叔父御は、武勇の将。源太の弟達にしても、次兄・兵部丞昌輝は武勇の将、三弟・安房守昌幸は智略の将。後の世…

『源太左衛門〜真田六文戦記〜』第一文銭:秋風川中島

落ち着いている。息が、である。未明、源太左衛門は登山をしていた。すなわち、夜陰に乗じて上杉本陣を奇襲すべく、裏手より妻女山を駆け登っていた。馬には轡を噛ませ、蹄は布で覆い、鎧兜は脱ぎ捨て篝火も焚かず、武田軍別動隊一万二千は密かに上杉軍本陣…