三好三大天

三好三大天 第五話『蒼天已死』

摂津国、武庫之荘(むこのしょう)。 一面の湿地帯が広がる。 戦場である。 朝靄の霧が晴れ、彼方には一向衆の旗印が翻った。 「すわ掛かれィ!」 わーっと喚声を上げ、槍を向け突撃して来たる一向門徒。 三好の長兄、仁の人・長逸(ながやす)は阿波の精兵を率…

三好三大天 第四話『仙熊丸』

「では、若様。 書面に押を頂きたく」 仁徳の士・長逸(ながやす)は、丁重に礼を以って座を下がり、一人の少年に筆を差し出した。 仙熊丸。 齢十一のこの少年は、幼年に似つかわず落ち着いた表情で堂々と居直る。 静かに筆を執ると、すらすらと書面に花押を…

三好三大天 第三話『仁の和議』

泥沼の混戦が続いていた。 室町管領・細川晴元と、石山本願寺・証如光敎。 初めは結託して戦乱を煽動した両者であるが、やがて折り合いが悪くなり敵対した。 畿内の権益独占のために彼らが利用した一向一揆は民の怨嗟を呑んで肥大化し、もはや制御不能の暴走…

三好三大天 第二話『天文法華の乱』

世は乱れていた。 長きに渡って続いた室町の世。 権力に寄生する佞臣(ねいしん)が跋扈(ばっこ)し、汚濁にまみれた内部抗争に明け暮れる世俗は荒れ果て、すっかり腐敗しきっていた。 民は困窮と飢饉に苦しみ、各地で一揆が沸き起こる。 略奪と殺戮の戦乱は国…

三好三大天 第一話『桃園の誓い』

時は戦国。 四国は、阿波徳島に三人の男がいた。 長逸(ながやす)、政勝(まさかつ)、友通(ともみち)。 春風が吹き抜けて一面に、桃の花が咲き乱れる。 長逸は盃を掲げ二人に語りかけた。 「我ら、義にて結ばれし三兄弟。 上は大殿を支え奉り、下は民草に至る…