無双OROCHIシリーズに登場する妖魔軍武将の出典まとめ③
悪樓(あくる)
日本神話における悪神。
吉備国(岡山県)の穴海に住んでいたと伝わる巨大な魚で、近づく船を丸飲みにするという。
『日本書紀』景行紀二十七年に「惡神」「吉備穴濟神(きびのあなわたりのかみ)」、『古事記』景行天皇条に「穴戸神(あなとのかみ)」として記述がある。
曰く、日本武尊(やまとたけるのみこと)が西国の熊襲(くまそ)討伐の帰りに悪樓に遭遇し、剣を振るって退治したという(また素戔嗚尊(すさのおのみこと)が悪樓と交戦したとする説もある)。
江戸時代の画家・浦川公佐の『金毘羅参詣名所圖会』にて「日本武尊悪魚を退治す」の図が描かれている。
馬絆蛇(ばはんだ)
中国の伝説上の怪物。
雲南地方に棲むとされる蛟龍(こうりゅう)の一種。
地理書『山海経(せんがいきょう)』中山経、晋の郭璞(かくはく)注に「永昌郡にいる鉤蛇は、長さ数丈(一丈約3m)で尾が分かれている。水中に棲んでおり、岸の上にいる人や牛馬を引き込んで貪り喰う。これを馬絆蛇と呼ぶ」との記述がある。
民俗学者・南方熊楠は『十二支考』において、宋代の類書『埤雅(ひが)』を引用し「俗称・馬絆とあるは、馬を絆(つなぎ)留めて行かしめぬてふ義であろう」と述べている。
睚眦(がいし)
中国の伝説上の生き物。
睚眥(がいさい)とも呼ばれる。
山犬の首に龍の身体を持ち、気性が激しく荒く、戦争や殺戮を好む。
「睚」は目尻、「眦」は目頭で、どちらの字も転じて「睨む」を意味する(司馬遷『史記』范雎伝にある「睚眥之怨」とは、ちょっと睨まれた程度の怨みとの意)。
古くは中国古代の武器や軍旗の意匠として飾られ、明代には「竜生九子」と呼ばれる伝説上の龍が生み出した九匹の幻獣の一つにも数えられる。
攫猿(かくえん)
中国の伝説上の生き物。
東晋の奇譚『捜神記(そうじんき)』に攫猿、あるいは猳国(かこく)や馬化(ばか)の名で記述がある。
蜀の西南の山中に棲み、姿はサルに似て身長は七尺(約1.6m)、色は青白い。
通りかかる人間の女性を攫(さら)って犯し、子供を産ませてしまう。
神仙の説話集である東晋の『抱朴子(ほうぼくし)』では、八百年生きた獼猴(みこう、アカゲザル)が猨猴(えんこう)となり、さらに五百年生きて攫猿になるとされる。
明代の『本草綱目』にも記述がある。
日本では江戸時代の『和漢三才図会』に玃(やまこ)として説明があり、鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』では覚(さとり、かく)と呼ばれる人の心を読む妖怪として描かれている。
瘧鬼(ぎゃくき)
中国で伝承される疫病を引き起こす鬼神。
近づいたり身体に触ると、瘧(ぎゃく、おこり。マラリア等の熱病)に感染させて人間を苦しめる。
東晋の奇譚『捜神記』によれば、古代五帝の一人である顓頊(せんぎょく)の子が瘧鬼に変じたという。
日本では平安時代の辞書『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』に瘧鬼(えやみのおに)として記述されている。
『源氏物語』若紫の巻では、光源氏が瘧を病んだため北山へ赴いて加持祈祷をした描写がある。
日本の古文献にしばしば登場するこの瘧病(おこりやまい、ぎゃくびょう)は、今日のマラリアに相当すると考えられる。
マラリア原虫という寄生虫が主に蚊を媒介して人体に侵入し、40度近い高熱や頭痛、吐き気等の症状をもたらす(悪性であれば意識障害や腎不全等の合併症を起こし、最悪の場合死に至る)。
僵死(きょうし)
中国の死体妖怪の一種。
死後硬直した遺体(「僵」は硬直の意)を埋葬する前に室内に安置していると、夜になって突然動き出し人を驚かせるという伝承から生じた。
『述異記』や『子不語』をはじめ明・清代の怪奇小説に数多く登場する。
日本では1985年の香港映画『霊幻道士』によって飛躍的に知名度が上がり、手を前方に真っ直ぐ伸ばしてピョンピョンと飛び跳ねるお馴染みのスタイルが一般に周知された。
蚣蝮(こうふく)
中国の伝説上の生き物。
覇下(はか)とも呼ばれる。
明代の文人・楊慎の『升庵外集』によると、龍の子である九匹の霊獣「竜生九子」の一つ。
形状は龍に似て四つ足で歩き、尾は魚のようで水を好む。
水に関する由縁から、中国の伝統的な建築物においては雨樋や橋、水路の意匠として彫られる事が多い。
窮鬼(ぎゃくき)
または窮鬼(きゅうき)。
日本の民間伝承における貧乏神と同義。
曲亭馬琴らによる江戸時代の奇談集『兎園小説』によると、年中災い続きの家には窮鬼が棲み付いているとされ、窮鬼が出て行くとその家の運気は上昇した。
津村淙庵の随筆『譚海』、井原西鶴の浮世草子『日本永代蔵』にも類似の挿話が見られる。
貧乏神は貧乏を福に転じる神として信仰され、東京都の太田神社や妙泉寺などこれを祀る寺社も存在する(妙泉寺にある貧乏神の石像はハドソンのゲームソフト『桃太郎電鉄』シリーズに登場するキャラクターをモチーフにしている)。
偽何歟(なんじゃか)
日本の妖怪。
為何歟(なんじやか)とも呼ばれる。
出典は江戸時代後期の妖怪絵巻物『化け物尽くし絵巻』で、他の図画に類例がない独自の妖怪の一つ。
人型の下半身だけが描かれており、獣のような尻尾を持つ。
それ以上何の情報も無く絵解きも困難で、全く謎の妖怪である。
民俗学者の湯本豪一は「何が"なんじゃか"わからない」という言葉遊びによって造られたとする解釈を挙げており、正体不明という概念そのものを示す特異な妖怪と考えられる。
④へ続く
【参考文献】
・『捜神記』竹田晃、平凡社
・『江戸の妖怪絵巻』湯本豪一、光文社
・『図説 地図とあらすじで読む 日本の妖怪伝説』志村有弘、青春出版社
・『幻想世界の住人たち』多田克己、新紀元社