無双OROCHIシリーズに登場する妖魔軍武将の出典まとめ①

 

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遠呂智(おろち)

日本神話における伝説上の怪物で、八つの頭と八本の尾、鬼灯のように真っ赤な眼を有する巨大な蛇。

本来は山神または水神とする説もある。

古事記』では八俣遠呂智やまたのおろち)、『日本書紀』では八岐大蛇(同訓)と表記される。

出雲国の肥河上流にて毎年人里に現れ、生贄の若い娘を食べていた。

その年は櫛名田比売(くしなだひめ)の順番で、老父母は涙を流し嘆いていたが、そこへちょうど高天原(たかあまはら)を追放された素戔嗚尊(すさのおのみこと)が降り立ち、事情を知るや櫛名田を妻に迎える事を条件に、遠呂智討伐を請け負った。

素戔嗚は、非常にアルコール度数が強いとされる八塩折之酒(やしおりのさけ)を用意し、遠呂智がこれを飲み酔って寝てしまったところを十握剣(とつかのつるぎ)で斬り伏せた。

この時、遠呂智の尾から草薙剣(くさなぎのつるぎ)すなわち神剣・天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ、三種の神器の一つ)が現れたという。

このように記紀神話では素戔嗚に討伐される怪物として描かれるが、一方で自然界の猛威を象徴する神として遠呂智を祀る民間信仰も存在する。

日本神話研究家の戸部民夫は、出雲地方における洪水の象徴として水を支配する竜神・遠呂智があり、櫛名田比売奇稲田姫)は民の稲田を象徴する、という解釈を挙げている。

無双OROCHIシリーズにおける遠呂智は人型だが、蛇のような眼と鱗状の鎧に大蛇モチーフのデザインが反映されている。

 


百々目鬼(どどめき)

江戸時代の妖怪画家・鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』に登場する妖怪。

両腕にびっしりと百もの眼を持つ女性の姿で描かれ、これは「盗癖のある女性の腕に、盗んだ銭(中央に空いた穴が眼を彷彿とさせる)の念が浮かび上がった」ものと解説されている。

石燕が出典にあげている『函関外史』という書物の実在は確認できず、また同時代の書や画本にも登場しない事から石燕による創作妖怪でないかと考えられている。

一方で「百目鬼」「百目貫」等と書いてどどめき、どうめきと読む地名が日本各地に点在しており、特に栃木県宇都宮市塙田(はなわだ)に残る地名には昔百匹の鬼を従える首領がいたとする伝説(長岡の百穴の百目鬼)や、平安時代藤原秀郷が討伐したとされる百の目を持つ鬼(兎田の百目鬼)が由来として伝わっており、石燕がこれらの民話をモデルにした可能性も指摘される。

昭和中期には妖怪漫画家の水木しげるが「百目」という全身に無数の眼を持つ妖怪を生み出しており、これらのイメージと複合されて現在の百々目鬼像が形成されている。

 

 

牛鬼(ぎゅうき)

主に西日本の民間伝承において語られる、牛の頭に鬼の胴体を持つ妖怪。

毒気を吐いて疾病を撒き、人を喰い殺す非常に危険な妖怪とされる。

平安時代の『枕草子』に「おそろしきもの」として名があがり、鎌倉時代の『吾妻鏡』では寺を襲撃して僧侶を多数殺傷した記述が見られ、『太平記』においては源頼光と対決した様子が描かれている。

鳥山石燕の『画図百鬼夜行』をはじめ江戸時代の妖怪絵巻にも数多く描かれ、それらは牛の頭に蜘蛛の胴体を持つ描写が多い。

愛媛県宇和島地方における牛鬼伝説が特に有名であり、現代でも牛鬼の面を飾った山車を引いて練り歩く祭事が執り行われている(うわじま牛鬼祭り)。

香川県徳島県、福岡県にも牛鬼の遺物と伝わるミイラや骨、角が各寺に保存されている。

 

 

(みずち)

日本神話における水に関係する伝説上の龍、水神。

最古の出典は『日本書紀』巻十一・仁徳天皇紀の六十七年(西暦379年)に中つ国の河の神として大虬(古訓はミツチ)が描かれている。

万葉集』巻十六・境部王の一首にも蛟龍(みずち)の記述がある。

民俗学者南方熊楠は『十二支考』において「わが邦でも水辺に住んで人に怖れらるる蛇を水の主というほどの意でミヅチと呼んだらしい」と書いており、また河の神としての伝承が変遷し河童伝説の祖となった可能性も指摘している。

訓の"みずち"に対し、中国の伝説上の龍の一種である「蛟龍(こうりゅう)」の漢字が当てられている(※蚊(か)ではない)。

無双OROCHIシリーズでは何故か肥満体の人型キャラクターとしてファンに愛されている。

 

 

黄泉軍(よもついくさ)

日本神話における死者の国・黄泉(よみ)に棲む鬼たち。

伊邪那美命(いざなみのみこと)が約定を違えた伊邪那岐命(いざなぎのみこと)に怒り、彼を捕らえるため遣わした黄泉国の軍勢。

 

 

隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)

伊予国愛媛県)松山に伝わる化け狸。

刑部狸(ぎょうぶだぬき)。

四国はたぬきに関する伝説が多く、特に江戸時代後期、田辺南龍の講談『松山騒動八百八狸物語』にて古い歴史を持つ八百八匹の化け狸の総帥として描かれ名が広まった。

刑部とは官名で、松山城のお殿様から授かった称号とされる。

1994年のスタジオジブリ作品『平成狸合戦ぽんぽこ』にも登場する。

 

 

飛頭蛮(ひとうばん)

中国の妖怪。

通常時は普通の人間だが、夜になると首だけが胴から離れて空中を飛び回る。

類書『三才図会』によれば大闍婆国(だいしゃばこく、ジャワ)に頭を飛ばす者がおり、また漢の武帝の頃には南方の蛮人に体をばらばらに出来る者がいたとされる。

東晋の小説集『捜神記』によれば呉の将軍・朱桓の家で働く下女に、夜になると頭部だけ飛び回る者がいたという。

日本においては類似の妖怪としてろくろ首が挙げられ、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』ではろくろ首の漢字表記として飛頭蛮の名が用いられている。

 

 

猪豚蛇(ちょとんだ)

中国の妖怪。

脚が四本あり、全身を毛で覆われた蛇のような化け物。

鳴き声は豚に似ていて毒牙を有し、噛まれると死に至る。

宋の時代に武将・成俊が退治したと伝わる。

 

 

煙々羅(えんえんら)

鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』に登場する煙の妖怪。

立ち昇る煙の中に不気味な顔面が浮かび上がる様子で描かれている。

日本文学研究者の近藤瑞木によると『徒然草』十九段、「六月の頃あやしき家にゆふがほの白く見えて、蚊遣火ふすぶるもあはれなり」の文を踏まえているとされ、煙の妖怪という例も他に見えない事から石燕による創作妖怪の一つと考えられる。

 

 

隠形鬼(おんぎょうき)

藤原千方(ふじわらのちかた)の四鬼の一人。

太平記』第一六巻・「日本朝敵事」によると、平安時代の豪族・藤原千方は四人の鬼を従えていた(金鬼、風鬼、水鬼、隠形鬼)。

このうち隠形鬼は、気配を消して敵に奇襲をかけるのが得意だった。

藤原千方は四鬼と共に朝廷への叛乱を起こすが、紀朝雄(きのともお)の軍に鎮圧されてしまう。

また四鬼は平安時代の将・坂上田村麻呂の伝説にも登場する。

 

 

水鬼(すいき)

藤原千方の四鬼の一人。

あらゆる場所において洪水を起こす力があり、敵を溺れさせる。

 

 

金鬼(きんき)

藤原千方の四鬼。

どんな武器でも弾き返してしまう堅い体を持つ。

 

 

風鬼(ふうき)

藤原千方の四鬼。

強風を巻き起こして敵を吹き飛ばす。

 

 

亡者火(もじゃび)

青森県津軽地方に伝わる、死者の魂が生家に帰還すると言われる怪火(鬼火・人魂のような正体不明の火球)現象の一種。

「モジャ」「モンジャ」、「亡霊火(もうれいび)」「モレビ」とも呼ばれる。

特に海で遭難して亡くなった(遺体が供養されていない)死者の霊魂が還って来るとの伝承がある。

人に憑き害を成す事もあり、地元では最も恐れられる心霊現象の一つ。

 

 

以津真天(いつまで)

鳥山石燕『今昔画図続百鬼』に登場する怪鳥。

出典は『太平記』巻十二・「広有射怪鳥事」で、建武元年秋、疫病が流行して死者が多く出ると都に人面を持つ怪鳥が現れ「いつまでも、いつまでも」と鳴いたので人々は恐怖した。

依頼を受けた弓の名手・隠岐次郎左衛門広有がこれを射抜いて退治した。

太平記』における記述は以上で、石燕はこのエピソードをもとに怪鳥を以津真天と命名し、妖怪図画として残したと考えられる。

 

 

狻猊(しゅんげい)

中国の伝説上の生き物。 

中華最古の類書『爾雅(じが)』に、虎豹を喰らう猛獣として記述がある。

後に注釈を施した晋の郭璞(かくはく)は、狻猊を獅子と同一視した。

一方で、明代には龍が生み出したとする九種の幻獣「竜生九子」の一つに数えられ、獅子によく似た煙や火を好む生物とされた。

 

 

燭陰(しょくいん)

中国の神獣。

地理書『山海経(せんがいきょう)』巻十七・「海外北経」に記載がある。

曰く北海の鍾山の麓に住み、顔は人面、胴体は赤い蛇のようで長さは千里にも及ぶ。

鳥山石燕の妖怪絵巻『今昔百鬼拾遺』に上記を出典として紹介されている。

 

 

仙狸(せんり)

中国における猫の妖怪。

長い歳月を経て老いた山猫が、神通力を身に付けて人間に化けるとされる。

日本の妖怪である猫又は、仙狸を起源とする説もある。

ちなみに猫又は古くは鎌倉時代の『明月記』『古今著聞集』等に記述が見られ、江戸時代の鳥山石燕による『画図百鬼夜行』では普通の猫が徐々に猫又に変化してゆく過程が描かれている。

 

 

獨足鬼(どくそくき)

中国における山の神。

独足鬼、または独脚鬼(どっきゃくき)とも言われ文字通り一本足の化け物として描かれる。

古代中国史研究者の桐本東太によると、中国南部の少数民族の伝承にある精霊「山魈(さんしょう)」に由来する鬼神とされる。

 

 

 

 

②へ続く

 

 

 【参考文献】

・『古事記』倉野憲司、岩波文庫

・『日本書紀宇治谷孟講談社学術文庫

・『日本神話』戸部民夫、新紀元社

・『十二支考』南方熊楠岩波文庫

・『鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集』鳥山石燕角川書店

・『決定版 日本妖怪大全』水木しげる講談社

・『妖怪事典』村上健司、毎日新聞社

・『日本の謎と不思議大全』人文社

・『日本怪談集 幽霊篇』今野円輔、中央公論新社

・『中国古代の民俗と文化』桐本東太、刀水書房