統合開発環境"Eclipse"の歴代バージョンとコードネームについて④

 

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Eclipse version 4.7 "Oxygen"

2017年6月、バージョン4.7がリリースされた。

カバレッジプラグイン「EclEmma」の正式採用やユーザビリティ・パフォーマンス向上、バグフィクスなど数多くの機能追加・修正が施されたが、特筆すべき大きな新機能といったものは追加されていない(バージョン1.0のリリースから16年の歳月を経て、いよいよ成熟の域に達したEclipseの機能充実の証左であろう)。

4.6 "Neon"のNに続いてOの頭文字を冠する4.7 "Oxygen"のコードネームは、化学元素である酸素に由来する。

 

酸素(英:oxygen)は原子番号:8、元素記号:O、周期表16族酸素族に属する無色無臭の気体で、標準状態では二原子分子のO2として存在する(空気中には約20%の酸素分子が含まれる)。

電気陰性度が高いため酸化力が強く、ほとんどの元素と発熱反応を伴い化合物を生成する。

水(H2O)や様々な酸化化合物として自然界に広く分布しており、生物の呼吸や燃焼反応において不可欠な元素である。

 

植物や植物プランクトン・藻類など葉緑体を持つ生物は、太陽光エネルギーによって生化学反応を起こし、水や二酸化炭素を分解して酸素を生じさせる(光合成)。

約46億年前、原始地球の大気中には酸素がほとんど含まれていなかったが、およそ23~20億年前に光合成生物が大量発生し大気成分中の酸素濃度を著しく上昇させた。

以降、酸素を利用して細胞内のミトコンドリアにより生命エネルギーを生成(呼吸)する生物が爆発的に繁殖し、生物圏は海洋から分化して陸上まで進出した。

光合成と酸素呼吸が真核生物から多細胞生物への進化・動植物の生物多様性をもたらした事からわかるように、酸素の存在は生物進化の歴史に顕著な影響を及ぼしている。

 

5億4,000万年前のカンブリア紀から3億年前頃ペルム紀初頭にかけて、シダ植物の発達により大気中酸素比率は最大で35%にも達し、多種多様な昆虫や両生類が大型化した。

しかし一方でシダ植物の未曾有の繁栄は大気中の二酸化炭素量を大幅に減少させ(吸収された二酸化炭素は大気中に還元されず大量に石炭化した。「石炭紀」)、温室効果の減衰した地球環境は寒冷化の時代を迎える。

ペルム紀末から続く三畳紀にかけて、環境の激変から地球史上最大規模となる生物の大量絶滅(P-T境界)が発生し、海洋生物の最大96%、全生物種で90~95%の種が絶滅した。

さらに三畳紀には北極から南極に至る超大陸パンゲアが形成され、大陸プレートの変動と活発な火山活動により大量のメタンおよび二酸化炭素が大気中に放出される。

そのため今度は地球温暖化が進んで大気中の酸素濃度が著しく低下し、三畳紀に続くジュラ紀には大気中の酸素比率は10%程度まで減少した(三畳紀末にもT-J境界と呼ばれる大量絶滅が発生している)。

 

低酸素、高温多湿と一変した地球環境の新時代に繁栄を謳歌したのは、恐竜である。

三畳紀に出現した恐竜は、気嚢(きのう・低酸素で最大効率のエネルギーを発生させる呼吸システム。現在でも鳥類は気嚢によって上空数千mの低酸素空間でも呼吸が可能である)という形質を備えていた恩恵でジュラ紀の環境に適応し大型化、多種多様な進化を遂げた。

恐竜の時代とも呼ばれるジュラ紀は今から約1億9,960万年前から約1億4,550万年前まで、代表的な種として肉食のアロサウルス、草食のイグアノドンやステゴサウルス、ブラキオサウルス等が挙げられる。

イチョウやソテツなどの植物も大きく繁栄し、海洋では魚類や爬虫類が、また小型恐竜の一部は鳥類として進化した。

恐竜は、続く白亜紀(約1億4,500万年前から6,600万年前まで)にかけて最盛期を迎え、この時期にはティラノサウルストリケラトプスヴェロキラプトルをはじめ数多くの種が陸上を闊歩し、翼竜類においてはプテラノドンが空を飛び、海洋ではモササウルス類や首長竜が繁栄した。

1990年のマイケル・クライトンの小説『ジュラシック・パーク』を原作とした1993年のスティーヴン・スピルバーグによる映画版において、CG(コンピュータグラフィックス)を用いた圧倒的迫力と躍動感を以って恐竜の威容が描かれた(映画の興行収入は当時全世界1位を記録した)。

ちなみに『ジュラシック・パーク』の名称はジュラ紀に由来するが、劇中に登場するほとんどが白亜紀の恐竜である。

 

恐竜は、約6,550万年前に突如として激減した。

これはK-Pg境界(旧:K-T境界)と呼ばれる地球史上2番目に大規模な大量絶滅の影響によると目されている。

この時、地球上の生物全個体数のうち99%以上が死滅し、種のレベルでは約75%の生物が絶滅した。

K-Pg境界発生の原因はメキシコのユカタン半島に落下した直径約10kmの巨大隕石であると考えられており、この隕石衝突時の爆発エネルギーはTNT換算で3×10の8乗-10の9乗メガトン、これは冷戦時代に米ソ両国が保有していたとされる全核弾頭の総エネルギー10の4乗メガトンの1万倍を超えると計算される。

爆発の衝撃およびその後の地球環境激変による影響で恐竜をはじめ多くの生物が死滅したが、小型で小回りが利いて地下でも活動可能、必要な活動エネルギーも少なかったネズミのような哺乳類が生き残り以降の新生代において繁栄の時代を迎えた。

 

近代科学において酸素は、1772年にスウェーデンのカール・ヴィルヘルム・シェーレ、1774年にイギリスのジョゼフ・プリーストリーがそれぞれ独立して発見している。

フランスのアントワーヌ・ラヴォアジエは酸素と燃焼に伴う数々の実験を行い、その実験結果を著書『Sur la combustion en général』の中で発表した。

ラヴォアジエは古代ギリシャ語よりὀξύς(oxys、酸)と-γενής(-genēs、生み出すもの)を組み合わせたoxygene(オキシジェン)という命名を酸素に施した(これは酸素が全ての酸性の源泉であるという誤解による。後世、酸性の根本は水素である事が判明した)。

 

1954年の東宝特撮映画『ゴジラ』において、オキシジェン・デストロイヤーという架空の兵器が登場する。

劇中の設定では科学者・芹沢大助が開発した水中の酸素を破壊する薬剤で、投下した範囲にいる水中生物が一瞬にして死に至る強力な大量破壊兵器であった。

2019年現在に至る数多くの『ゴジラ』関連作品において、「ゴジラを完全に死に至らしめた唯一の手段」として知られる。

1995年の映画『ゴジラvsデストロイア』ではオキシジェン・デストロイヤーの影響で先カンブリア時代の微小生命体から異常進化を遂げた怪獣・デストロイアが登場した。

 

 

 

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Eclipse version 4.8 "Photon"

2018年6月、バージョン4.8がリリースされた。

Java10対応とプログラミング言語 RustおよびC#のサポートなど各種新機能が追加され、85の主要プロジェクトから620人の技術者が開発した7,300万行のコードが提供されている。

4.7 "Oxygen"のOに続いてPを冠する"Photon"は、量子論における素粒子の一つ「光子(フォトン)」に由来する。

 

光は、 人類史上様々な思想や宗教において超越的存在と結び付き考えられて来た(古代エジプトの太陽神、『新約聖書』での神とイエスの描写、仏教における智慧と慈悲の象徴など)。

科学的には古くは紀元前4,3世紀の古代ギリシアの哲学者エウクレイデス(英:ユークリッド)が幾何光学の基礎理論を提唱し、近代科学黎明期にはドイツのヨハネス・ケプラーが光の逆二乗の法則を発見。

1704年、イングランドアイザック・ニュートンが著書『光学』において「光の粒子説」を提唱したが、1805年にはイギリスの物理学者トーマス・ヤングが実験により「光の波動説」を打ち立てた。

以来、20世紀初頭に至るまで光の本質が「粒子」か「波動」かという問題は物理学上の大きな謎とされた。

なぜなら諸々の研究から光が「粒子」でなければ説明の付かない現象、「波動」でなければ説明の付かない現象が共に生じていたからである。

 

1905年、ドイツの物理学者アルベルト・アインシュタインが「光は粒子でもあり波動でもある(双方の性質を併せ持つ)」とする光量子(light quantum)仮説を提唱し、この問題は「量子力学」という新分野の研究により解決へ向かう。

1926年にはアメリカの物理学者ギルバート・ルイスが光(放射エネルギー)の最小単位を「光子(Photon)」(量子論における物質構成の最小単位・素粒子の一つ)と命名し、長年科学界の謎とされてきた光の概念はここに統一された。

 

現在アメリカのIBM社やGoogle社をはじめ世界各国で研究されている量子コンピュータは、従来型のコンピュータ(第二次大戦期にドイツ軍の暗号"エニグマ"を解読したイギリスの数学者アラン・チューリングが提唱した動作原理は、古典コンピュータの誕生に重大な影響を及ぼした)が「0」か「1」の二進数による情報基本単位「ビット」を用いて演算を行うのに対し、「量子ビット(quantum bit、キュービット)」と呼ばれる新技術を利用しその性質である「0でもあり、1でもある」(ちょうど上述の光の性質が「粒子」でもあり「波動」でもあるように)という量子論における重ね合わせの状態での量子演算を可能にする。

この技術が実用化されれば、従来のスーパーコンピュータにおける演算処理能力を遥かに凌駕する性能で世界中のテクノロジーに革新をもたらす可能性もあるが、現状では幾つもの固有の課題を解決出来ていない。

 

2007年の水島精二黒田洋介 『機動戦士ガンダム00』シリーズに登場する量子型演算処理システム「ヴェーダ」は、物語の設定上では西暦2100年頃に開発された世界最高性能の量子コンピュータで、劇中のソレスタルビーイングイオリア計画について根幹を成す。

ダブルオーガンダムと支援機・オーライザーがドッキングしたダブルオーライザーメカニックデザイン海老川兼武)によるトランザムバースト発動時、およびダブルオークアンタ(デザイン・海老川兼武)によるクアンタムバースト発動時には、超高濃度圧縮GN粒子の展開によって領域を形成し、機体の量子化量子力学不確定性原理に基づく)現象を発生させるなど、量子に関するSF的描写が導入されていた。

 

2011年の『機動戦士ガンダムAGE』に登場する地球連邦軍の新型宇宙戦艦「ディーヴァ」には、硬X線レーザーを照射する「フォトンブラスターキャノン」と呼ばれる兵器が搭載されている。

2014年の富野由悠季ガンダム Gのレコンギスタ』の設定舞台であるリギルド・センチュリー(R.C.)の時代には、光を圧縮して蓄積したフォトン・バッテリー(Photon Battery)と呼ばれるエネルギー源が外宇宙から供給され、劇中での重要なテクノロジーとして物語の鍵になっていた(戦闘の舞台がキャピタル・タワーザンクト・ポルトトワサンガビーナス・グロゥブへと移っていく過程はちょうどフォトン・バッテリーが製造・供給される順路を遡っている)。

 

 

 

統合開発環境"Eclipse"のコードネームは、バージョン4.8 "Photon"を以って終了した。

2006年のバージョン3.2 "Callisto"以来、13年間に渡って毎年のアップデート時にコードネームが命名されて来たが、一見して古いか新しいか識別出来ない事、年一回の大型アップデートに限定しては迅速な機能提供が難しい事などから、ついに廃止の決定が下された。

今後は3ヶ月毎に新しいバージョンがリリースされ、名称も"2018-09"、"2018-12"、"2019-03"といったリリース時点の年月を表すシンプルな形式に変更となる。

 

天文学、神話、自然科学、化学元素といった多様な分野における題材をテーマに据えたEclipseのコードネームは、毎回次は何が選ばれるのかという高揚感、そしてまだ知らない様々な新しい知識を探求する契機を与えてくれたように感じる。

廃止となった事には残念な思いもあるが、本来の統合開発環境としての機能に最適化したリリース形態を模索し意思決定した開発者たちの英断には敬意を表したい。

そして、Eclipseを通じて壮大な星と神話と科学の世界へと我々の興味を導いてくれた歴代コードネーム制度とそれに携わった多くの方々に心から感謝を申し上げる。

最後に、全4回ここまで長駄雑談にお付き合い下さった読者の皆様、本当にありがとうございました。

 

 

 

 

【参考文献】

・『Eclipse: Behind the Name』eWeek.com、Ziff Davis Enterprise Holdings

・『Eclipse IDE, Oxygen Edition New and Noteworthy』Eclipse Foundation

・『New Photon Release of Eclipse IDE Ships With Full Rust Support』Eclipse Foundation

・『大辞泉小学館

・『酸素の歴史』川上紳一・大野照文 、集英社

・『元素111の新知識』桜井弘、講談社

・『地球時計』A・オレイニコフ、講談社

・『爬虫類の進化』疋田努、東京大学出版会

・『学研の図鑑・恐竜 』学研

・『再現! 巨大隕石衝突-6500万年前の謎を解く』松井孝典岩波書店

・『平成ゴジラパーフェクション』川北紘一アスキー・メディアワークス 

・『物理学史II』広重徹、培風館

・『フォトンの謎 ー光科学の最前線ー』水島宣彦、裳華房

・『量子コンピューティングの最新動向』FUJITSU JOURNAL

・『電撃データコレクション 劇場版 機動戦士ガンダム00角川書店

・『機動戦士ガンダムAGE(1)スタンド・アップ 』小太刀右京角川書店

・『ガンダム Gのレコンギスタ オフィシャルガイドブック』学研パブリッシング