統合開発環境"Eclipse"の歴代バージョンとコードネームについて③

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Eclipse version 4.4 "Luna"

2014年6月にリリースされたバージョン4.4では、革命的ラムダ式はじめJava8の新機能に正式対応し、76の主要プロジェクトから6,100万行を超えるコードが提供された。

毎年6月恒例の一斉アップデート、コードネームを冠するRelease Trainも9年目に突入しいよいよ統合開発環境"Eclipse"も成熟に域に達し不動の地位を築きつつある。

 

4.3 "Kepler"のKに続きLを冠する4.4 "Luna"は、文字通り「月」を由来とする。

ちなみにページ上部に貼り付けているのはスプラッシュ画像と呼ばれるEclipse起動時のロード画面に表示されるテーマで、コードネームに因んだ美麗グラフィックが描かれている。

Eclipseをインストールした「eclipse/plugins/org.eclipse.platform_x.x.xxx...」フォルダ内の「splash.bmp」ファイルがロード画面に表示されるパスなので、この内容を変更する事で好きな画像を表示できるという小技もある。)

4.4 "Luna"では、月食(Lunar Eclipse)時に月から地球を見た際に発生している日食のイメージが描かれ、Eclipseかつ"Luna"をモチーフにした完成度の高いデザインに仕上がっている。

また地球の夜側の地表には実際の都市部の光が描写されており、向かって左側からアラビア半島、インド、中国、そして日本列島の形が見て取れる。

朝鮮半島の北側はしっかり真っ暗になっている事からも、再現度が非常に高い事が伺い知れる。)

 

画面右下に映る青い光を纏った星々の集まりは、プレアデス星団(和名:すばる)。

おうし座の散開星団で、季節・天候によっては肉眼でも確認出来る。

特徴的な色調と形状から古来より多く観測されており、多様な民族の神話・伝説に語られている。

"Pleiades"は、MergeDoc Projectが提供するEclipseの日本語化Pluginの名称で、スプラッシュ画像のプレアデス星団もこれに由来するものである。

 

地球の唯一の衛星、最も近い天体であり太陽の次に明るい月は、古来より人類史に数多の神話や伝説、文化、学問を興し顕著な影響を及ぼしてきた。

特に日本の歴史と文化、その伝統においても月の存在は特筆される。

古事記』ではイザナギ伊邪那岐命)の右目からツクヨミ月読命)が誕生したと伝わり、夜を統べる月の神格化と目される。

 (同時にイザナギの左目から生まれたアマテラス(天照大神)は太陽の女神である。このように太陽と月を二対の神と捉える伝承は、比較神話学の見地から他の世界中の神話に共通して見られる傾向として興味深い。アイヌ神話のペケレチュプカムイとクンネチュプカムイ、北欧神話のソールとマーニなど。)

平安時代の『竹取物語』ではかぐや姫が月へ帰る様が描かれ、月見の伝統と俳界においては秋の季語として親しまれ古くから日本文化に数多く謡われる。

日本マクドナルドでは毎年9月上旬~10月にかけて期間限定メニュー・月見バーガーが販売され、ミートパティ、めだま焼き、オーロラソースにベーコンというシンプルでジャンキーな味わいで人気を博す(個人的にはレタスやトマトなど生野菜が苦手なので、月見バーガーの構成は都合が良くこれは時折り無性に食べたくなる)。

 

ルナという呼称はラテン語であり、ローマ神話の月の女神ルーナに由来する。

富野由悠季機動戦士ガンダム』シリーズに登場する月軌道上の軍事基地ルナツーは、宇宙世紀0045年にアステロイドベルトから運ばれてきた小惑星ジュノー(前回の記事4.2 "Juno"の項で言及)であるとの設定が福井晴敏機動戦士ガンダムUC』に記載されている。

SF作家ロバート・A・ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』では、月面に移住した人類が"月世界"(ルナ)国家を樹立して地球連邦政府に宣戦を布告する様が壮大な叙事詩として描かれた。

また富野由悠季∀ガンダム』でも数千年前に月に移住し独自の文明を進歩させた人類(ムーン・レィス)が地球への帰還を目指し、十九世紀程度の文明レベルに退行した地球人類の牧歌的な世界観の中で起こす抗争が描かれている。

 

 

 

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Eclipse version 4.5 "Mars"

2015年6月、バージョン4.5がリリースされた。

コードネームは火星を意味する"Mars"。

("Luna"のLに続いてMを頭文字に冠する。)

当時このバージョンアップをリアルタイムで体験し、社内の誰よりも早くEclipseのアップデートを実施しながらついに惑星級の大概念が登場したものかと感銘を受けた。

2015年はアメリカでアンディ・ウィアーのSF小説『火星の人』を原作にした映画『オデッセイ』(主演:マット・デイモン)が公開されたし、空前の火星ブームが到来していたように感じられる。

 

マルスは、ローマ神話における軍神でギリシャ神話のアレスと同一視される。

酸化鉄が多量に含まれた火星の地表は赤く、古くから赤い惑星と認識されており古代バビロニアでは戦火と血を連想して戦神ネルガルの名が付けられた。

(ネルガルは戦禍と死をもたらす事からメソポタミア神話における冥界の女神エレシュキガルと関連付けられ、これはギリシャ神話におけるアレスが冥界の神ハーデスとの関わりを語られるのと同様である。)

主神ゼウスとヘラの子でありオリュンポス十二神にも数えられるアレスは、ヘシオドスの『神統記』等の記述にも見られるように男神の中で最も美しい容姿を持つとされる。

(2018年に発売したコーエーテクモゲームスの『無双OROCHI3』において他のオリュンポスの神々と共にプレイアブル・キャラクターとして参戦した活躍は記憶に新しい。)

また火星の月(衛星)であるフォボスダイモスは、アレスの子の名を由来とする。

 

火星は、太陽系の第四惑星であり地球型惑星に分類される。

直径は6,794km、自転周期は24時間39分で公転周期は1.88年、大気は希薄で組成の95%は二酸化炭素である。

地表は玄武岩安山岩の岩石から成り、平均気温は氷点下46度。

二十世紀初頭にはH・G・ウェルズの『宇宙戦争』やエドガー・ライス・バローズの『火星のプリンセス』(2012年ディズニーより『ジョン・カーター』として映画化された)等のSF作品において高度な知能を持った火星人が描かれたものだが、現在では研究が進み、かつてのように地球外生命体の存在する可能性を火星に見出す傾向は減じている。

 一方で1990年の『機動戦士ガンダムF90』シリーズにおける火星独立ジオン軍や2011年の『機動戦士ガンダムAGE』に登場した火星移民の末裔・ヴェイガン、2010年の『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop』および2015年の『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』では物語の舞台を火星に設定するなど、太陽系内惑星で最も地球環境と似た火星をテラフォーミングの対象として描く創作作品は多い。

 

 

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Eclipse version 4.6 "Neon"

2016年6月にリリースされたバージョン4.6のコードネームは、化学元素であるネオンに由来する。

Press ReleasesによるとNeptune(海王星、海神ネプチューン)やNova(新星)も候補に挙がったようだが、商標等の諸事情によりネオンが採用された。

これまで天体・神々・自然科学に基づく多様な命名が成されてきたが、ここに来て化学元素という新たな局面を迎える。

 

ネオンは原子番号:10、元素記号:Ne、希ガス類に属する無色無臭の単原子気体で、1898年イギリスの化学者ウィリアム・ラムゼーとモーリス・トラバースにより発見された。

ガイスラ―管と呼ばれる簡易な放電装置に封入すると赤色の光を発する特性があり、これを応用してアルゴン・ヘリウム・窒素などのガスを混入する事で実に多彩な(丁度スプラッシュ画像に描かれるように鮮やかな)色調を発光する事が可能である。

またガラス管も多様な造形が容易である事から、「ネオンサイン」として二十世紀初頭より店舗の看板や広告等に多用され爆発的に普及した。

 

ネオン街という言葉もある。

これは昼に栄える繁華街に対して夜に人通りが多くなり、ネオンサインを掲げる酒場や遊戯場などが多く建ち並ぶ歓楽街を指す(『大辞泉小学館)。

日本で最大規模のネオン街として挙げられるのは東京都新宿区の歌舞伎町だろう。

大学生の頃に一度だけ歌舞伎町を訪れた事があるが、彩り豊かなネオンで輝く退廃的でサイバーパンクSF世界観の如き独特な雰囲気にただ圧倒されるばかりで、それと練り歩く人々の容姿も非常に怖かったのですぐに帰った。

セガゲームスアクションアドベンチャーゲーム龍が如く』シリーズの舞台設定である神室町は歌舞伎町をモデルにしており、最近では同シリーズと世界観を同じくするPlayStation4用ゲーム『JUDGE EYES:死神の遺言』にて再現度の高い3Dグラフィックで構築された神室町の街中を闊歩する事が出来た。

 

小野博之の『ネオンサイン・イルミネーションの歴史』によると、都市部の夜空を彩る特異なネオン文化の創造は特に日本人にとって異常な関心事で、独自の感性と研究意欲によって世界に比類のない技術と表現力を以って完成の境地に至ったとされる。

古くは行燈(あんどん)の発明に見られるよう和紙に模様書きした光のイルミネーション、そして熟練の職人技によって磨き上げられた江戸の花火、伝統ある京都の大文字焼き等、光のサインは日本文化において多様な様相を呈している。

1918年、東京銀座一丁目の谷沢カバン店に日本初のネオンサインが導入されて以降、1926年東京日比谷公園で行われた納涼祭に東京電気会社(のちの東芝)が開発した初の国産ネオンサインが設置され、太平洋戦争による断絶期も生じたが戦前・戦後を通して多種多様なネオン文化は日本の都市部に多く見られ独自の進化を遂げた。

現在でも夜の歓楽街はじめ所々で見られる数多くのネオンサインは、世俗風習における日本文化を物語る上で重要な役割を演じていると言えるだろう。

 

 

④へ続く

 

【参考文献】

・『Eclipse: Behind the Name』eWeek.com、Ziff Davis Enterprise Holdings

・『Eclipse Luna Release Train Now Available』Eclipse Foundation

・『神統記』ヘシオドス、廣川 洋一、岩波文庫

・『ギリシアローマ神話辞典』高津春繁、岩波書店

・『オックスフォード天文学辞典』朝倉書店

・『歴史』ヘロドトス、松平千秋、岩波文庫

・『古事記岩波書店

・『日本神話の起源』大林太良、 角川書店

・『機動戦士ガンダムUC福井晴敏角川書店

・『月に繭 地には果実』福井晴敏角川書店

・『月は無慈悲な夜の女王ロバート・A・ハインライン、ハヤカワ文庫SF

・『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop』隅沢克之角川書店

・『大辞泉小学館

・『ネオンサイン・イルミネーションの歴史』小野博之、東京システック