吉川英治『三国志』における徐晃まとめ②
■(七)望蜀の巻
◎潼関を失す
命じられて曹洪・徐晃の一万が救援に駆け付けるが、馬超軍の執拗な挑発で曹洪は血気に逸ってしまう。
『丞相のおことばを忘れたか。十日の間は固く守れ。手だしはすなと仰せられた』
徐晃は諫める。
しかし若い曹洪は振り切って出陣し、鬱憤を晴らすように大暴れ!
一方で徐晃は慎重に、深追いを避けて戦った。
しかし関を出た時点すでに西涼軍の術中であり、潼関を失って敗退してしまう。
曹操は激怒、命に背いて大敗した両将を責めた。
ありのまま敗因を語った徐晃の言に、曹操は曹洪を処断しようと剣を抜く。
『――いや、それがしも同罪ですから、罪せられるなら手前も共に剣をいただきます』
諸将も両人を擁護したので、「功を立てれば許す」と曹操は斬罪を猶予した。
◎渡河作戦
潼関を守る馬超・韓遂ら涼州連合軍を前に、手をこまねく曹操軍。
良計の浮かばぬ中、徐晃が黄河を渡り敵の背後を突く策を奏上する。
『徐晃の説は大いに良い』
作戦は見事成功し、後背に憂いを得た涼州軍は動揺。
これを機に賈詡の離間計が功を奏して、曹操軍は馬超らを撃退した。
■(八)図南の巻
◎漢中平定
陽平関の戦いで徐晃は大いに漢中兵を破り、夏侯淵・張郃の両将と共についに漢中を平定した。
◎濡須の役
若き孫権は突出し、張遼・徐晃の包囲鉄環に捉われるが、勇将・周泰が命懸けで孫権を逃がす。
◎魏王親征
魏王に昇った曹操。
一方漢中では夏侯淵が戦死し、魏軍は窮地に陥る。
濛々たる殺気をみなぎらして曹操は自ら大軍を興し、先鋒に徐晃を立てて遠征に臨んだ。
『徐晃、行け』
しかし名将・趙雲に阻まれ、戦況は膠着する。
◎王平の離反
徐晃は漢水を渡って一気に蜀軍との決戦に持ち込まんと計るが、副将の王平は「水を背にするのは不利だ」と反対する。
けれど徐晃は、
逃げる黄忠をまさに捉えんとした時、背後から趙雲の襲撃を受けて退路を失う。
魏軍は大敗し、徐晃もようやく身一つで漢水の向うまで逃げて来た。
岸の守備を任せていた王平に「なぜ後詰もせず、橋が焼かれるのを見ていたのだ」と責める徐晃。
王平は黙然と堪えていたが、その夜、陣に火を放ち蜀軍に投降してしまった。
■(九)出師の巻
◎関羽の脅威
水計による七軍の壊滅と、襄樊戦線における危急が魏国を動揺させる。
曹操は至急の援軍五万を大将・徐晃に率いさせ、南の陽陵坡まで進ませた。
徐晃はここで、機が満ちるのを待つ。
――呉すでに荊州を破る。
これに呼応する形で、満を持して徐晃は偃城に向け進撃する。
守将の関平は精兵を率いて迎え討つが、徐晃の巧みな用兵に謀られ城を失い、退却する。
機を得た魏軍は大勢を進め、樊城を目前にする。
『徐晃はむかしの友だ。』
徐晃もまた馬上に礼を施し、彼に言う。
『一別以来、いつか数年、想わざりき将軍の鬢髪、ことごとく雪の如くなるを。――昔それがし壮年の日、親しく教えをこうむりしこと、いまも忘却は仕らぬ。今日、幸いにお顔を拝す。感慨まことに無量。よろこびにたえません』
二人は過日の友誼を懐かしみ、しかし今は敵同士、大義を前に私心は滅す。
両雄は大斧、青龍刀を揮って雷閃雷霆の中を数十合も撃ち合った。
だが矢瘡が癒えず老来病後の関羽には限界が訪れ、親子の情に駆られた関平が退き鉦を鳴らして兵を収める。
千載一遇の時を得、樊城の籠る兵らが一斉に討ち出で、ついに関羽の軍は壊滅。
襄陽に向けて敗走した。
◎労徐晃令
ひいては魏国最大の危難を乗り越えたと言って良い。
曹操は徐晃をこのたびの第一級の勲功とたたえ、平南将軍に封じて、襄陽の地を与え労った。
荊州方面に在りながら関羽の死を防げなかった蜀将・劉封と孟達は、戦後劉備に責められた。
孟達は罰を恐れて曹丕を頼って魏へ降り、一方で劉封は武功で挽回せんと逸る。
しかし襄陽を守る勇将・徐晃に対し、劉封は太刀打ち出来なかった。
◎五路の大軍
劉備の死を受け、魏帝・曹丕は司馬懿の献策により五方面の大軍をもって蜀に攻め掛からんとする。
しかしこの頃すでに、曹操時代の功臣たる張遼・徐晃などという旧日の大将たちは、みな列候に封ぜられてその領内に老後を養っている者が多かった。
ただ一抹のさびしさがあった。
◎建艦総力
皇帝曹丕は、征呉の大兵を興す。
司馬懿の献策により大型艦艇の建造計画を進め、いよいよ長江へ進撃した。
先鋒の曹真には、張遼・張郃・文聘・徐晃などの老巧な諸大将が補佐に就いた。
■(十)五丈原の巻
◎最期
蜀に内通の兆しを見せた孟達を密かに討つべく、司馬懿は軍勢を率いて新城へ向かう。
『――さもあらば、それがしも貴軍に合して、往きがけの一働きを助勢つかまつりたいが』
朝。
暁風あざやかに魏の将軍旗がはためいている。
孟達は城のやぐらへ駆けのぼり、旗の下に見える大将へひょうと一矢を射た。
『何たる武運の拙さ。
徐晃は、この朝、攻めに先だって、真額を射ぬかれ、馬からどうと落ちてしまった。』
終わり
【参考文献】