三好三大天 第三話『仁の和議』


泥沼の混戦が続いていた。

 

室町管領細川晴元と、石山本願寺・証如光敎。

初めは結託して戦乱を煽動した両者であるが、やがて折り合いが悪くなり敵対した。

 

畿内の権益独占のために彼らが利用した一向一揆は民の怨嗟を呑んで肥大化し、もはや制御不能の暴走を拡げてしまう。

 

両者打ち続く戦役に疲弊し切って、城砦も領地も荒れに荒れていた。

 

 

そんな状況下である。

 

遥々阿波徳島より海原を越えて、堂々たる威風、気鋭の軍勢が畿内へ上陸する。

由緒ある武家の名門・三好一族。

一時は凋落するも新生し、今、仁徳の士・長逸(ながやす)に率いられ、乱世に王道を布かんと表舞台へ翻った。

 

 

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行く先の村々は、荒れている。

民は飢え死に略奪と殺戮が横行した。

三好の軍勢は畿内への道中、立ち寄る村々で糧を施し、負傷者の手当をして、民草の荒んだ心身を安んじた。

 

「我らが参ったぞ。もう安心せい」

 

長逸は、あばら屋でうなだれる薄汚れた少年に干し飯(いい)を与え、励ました。

荒れ果てた家屋の柱を据え直し、三好の兵らは惨憺たる有り様に胸を痛めた。


そこへ、

「おうおうおう、わしらの村で、何をしておるか」

まるで賊のような門徒兵が薙刀を掲げ、数人、村の入り口へ集まってきた。


「ひぃっ!」

村民は脅え、老人は縋(すが)って懇願した。

「お侍さま、お助けくだせえ。
わしらにはもう納める米なんざ、ありゃあせん」

 

老人の肩を支えて長逸が、その優しく穏やかな眼にしかし冷たく燃ゆる破邪顕正の貌をたたえて、僧兵の横暴に心底怒りを示した。


次兄・三好政勝は、身の丈八尺にも成る巨体に威を纏わせて、大きくずっしり重い棍棒を片手に担ぎ、ただ
「退(の)けぃ!」

と低く野太い声色で言った。


僧兵は怯み、政勝の異形にこれは敵わぬと悟って、さらに続々と駆け付けた三好の大軍勢を見るや、

「に、逃げろ」

と退散した。

 

世はまさに、無秩序!

 

暴力が支配する混迷の時代を迎えていた。

 

 

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じっと、床几に軍図を拡げて考えに耽っていた三弟・友通(ともみち)。

方々へ放った斥候が情報を持ち帰り、ひそひそと友通に伝えては策を練る。

 

やがて、静かに口を開いた。

「兄者。

ここに至って細川・本願寺両軍は疲弊し切って、停戦の機を模索している様子。

三好の武威!

これを以って戦局へ介入し、和睦を仲介せしむなら今です。

戦乱の終結を成すと共に、三好が返り咲く様を世に示し、新秩序構築の足掛かりとなりましょう」

 

「ならば、よし」

 

長逸は、三好一門の諸将を前に友通の献策を取り上げた。

 

「お上の和睦が相成れば、世の人の暮らしも今より変わろう!」

 

いざ摂津池田城、細川旧主のもとへ。 

三階菱(びし)に五つ釘抜の家紋掲げる旗を翻し、三好勢は摂津へ行軍した。

 

 

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「致し方なし。

しからば万事、頼む」

 

管領細川晴元はすっかり弱った様子で、家臣たる三好に頭を下げた。

下げざるを得ぬ戦況を思い知ったからである。

 

長逸の外交能力の巧みさが際立った。

威を以って脅すかの如き剣幕で圧倒したと思えば、穏やかに器量を褒め称えて絆(ほだ)し、今は無二の手となる和睦の利を説いて 、三好がそれを能(あた)う事を示した。

 

「よろしゅうござる。

先般、本願寺にも使者は送り申した。

和睦の調印は三日と掛かりませぬ。

両者共栄の御為、三好が力を尽くしましょう」

 

政勝、友通の両義弟は、仁の人・長逸がこうも器用に政治を成すことも出来るのかと感心した。

思いだけでなく、実も伴う政治家である。

 

 

 世に、三好再興の武威を示したこの和議仲介の義挙は、長逸が目指す仁の志。

その実現の大きな一歩となった。

 

 

 

 

 

 三好三大天 第三話 終わり