三好三大天 第一話『桃園の誓い』
時は戦国。
四国は、阿波徳島に三人の男がいた。
長逸(ながやす)、政勝(まさかつ)、友通(ともみち)。
春風が吹き抜けて一面に、桃の花が咲き乱れる。
長逸は盃を掲げ二人に語りかけた。
「我ら、義にて結ばれし三兄弟。
上は大殿を支え奉り、下は民草に至るまで。志を同じくして助け合い、困窮する者らを救わん!」
長逸は、幼い頃に家族を亡くした。
徳を重んじ、目一杯の愛情を注いで育ててくれた偉大な祖父。
厳格でいて優しくて、立派な武人であった父。
皆、戦で討ち死にをした。
乱世である。
長逸の青春は苦難の日々だった。
一族の大半を喪って戦火に追われた三好家の者らを、まだ若く幼い長逸は懸命に守り、よくも生き延びた。
厳しい時代にこそ人の情、仁徳を重んじ助け合う。
己ひとりが生き抜くにも必死な乱世にこそ、人を思い遣る心を忘れない。
__容易な事ではない。
しかし偉大な祖父の教えを長逸はよく守った。
仁徳の士・三好長逸(ながやす)。
精悍な若武者に成長した彼は、今、三好の長兄として桃園に誓いを立てる。
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一族の豪傑・三好政勝。
無双の怪力を誇るこの偉丈夫は、長逸の仁徳に惚れ込んだ。
乱暴者と罵られる彼だが、その粗暴さの裏には巨躯と異形を皆に恐れられ、忌み嫌われた悲しみがあった。
そんな政勝にとって、誰とも分け隔てなく誠実に接する長逸から受けた情、その親しみと優しさは胸を打った。
初めは不遜な態度であった政勝も、長逸の仁徳に触れ次第に心を開き、今や無二の同志となった。
「長逸殿が築く仁の世のため。
俺は命を捨てても惜しくはねえ!」
政勝は、太く逞しい腕を上げ桃園に盃を交わす。
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岩成友通(いわなり ともみち)。
出自は、定かでない。
卑しい生まれであったのかもしれない。
生来賢く、怜悧な智略と才気があった。
友通の父が三好家の下働きをした事から、友通もまた三好に仕えた。
めきめきと頭角を現し実力を示す友通を、しかし周りは素直に才を認めず、かえって心無い者らが彼を謗り蔑んだ。
賢い友通は幼心にも、それは己の身分が低い故だと気付いていた。
そんな彼にも分け隔てなく誠を尽くし、その智を見出し敬意すら表したのは三好一門の若侍、長逸であった。
人を疑うよう育った友通だが、長逸の徳に触れて人生が変わる。
理想に燃えるこの若武者が、利己や打算で生きている事では無いと友通は知った。
己を守るため冷たく閉ざしていた心は溶け出し、長逸の徳に次第に感化され、今や無二の同志となる。
「長逸殿が掲げる仁の志。
私は、真に仕えるべき主君を得たり!」
鋭利な智略をたたえる貌は若き情熱に満ち満ちて、友通もまた桃園に盃を交わす。
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「生まれた時は違えども。
死ぬ時は揃って同じ年、同じ月、同じ日を願わん!」
長逸、政勝、友通。
志を同じくする三人の男たちは、今、一面の桃園に義兄弟の誓いを交わした。
キィィーーーーン
盃が重なり、鳴り響く。
春風が心地良く流れた。
後に戦国乱世を駆け抜け、"三好三大天"と讃えられる将星たちの、これが始まりの地であった。
三好三大天 第一話『桃園の誓い』 終わり