徐晃伝 十五『宿命』

 

※この物語はフィクションです。

 

 続く延津の戦いでは、袁紹軍の猛将・文醜の騎馬隊が猛威を奮った。

 

これに力押しで当たらず、専守防衛に徹した徐晃の指揮こそ兵法の妙であろう。

 

 

文醜隊に疲れが見え、勢いが死んだ機に一転、徐晃隊は攻勢に出た。

 

さらに軍師・荀攸の策で文醜の兵に乱れが生じ、戦闘は一気に混戦へと陥る。

 

「見える・・・っ!」

 

乱戦の中で徐晃は、手ずからに大斧を振るい敵将・文醜の前に躍り出た。

 


「ソイヤッ!!」

 

徐晃はその強堅な体幹を軸に遠心力を巧みに用いて大斧を振り回し、必殺の連撃を見舞う。

 

咄嗟に文醜は、初撃を受け流そうと槌(つち・棍棒の類い)で受けてしまうが、その重厚な一打は受け切れるものではない。

 

槌はひしゃげて折れ曲がり、文醜は腕に深傷(ふかで)を負った。


二撃、三撃と続く猛攻を躱(かわ)し切れず、文醜は一刀の下に斬り倒された。

 

「敵将・文醜、徐公明が討ち取り申した!」

 

鬨の声が響き、袁紹軍は壊走した。

 

 

こうして徐晃隊は白馬に続いて延津の要衝も勝ち取る。

 

顔良文醜もその武勇は名高く相応の将器であったが、関羽徐晃の武はそれを遥かに凌駕した。

 

この前哨戦の快進撃は、二人の勇名を天下に轟かせる。

 

 

 

 

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袁紹軍の幕舎に身を寄せていた劉備はその報せに驚き、安堵した。

「雲長が曹操軍に!?

・・・そうか、生きていてくれたか・・・!」

 

事情はどうあれ、義弟・関羽の息災無事に劉備は胸をなでおろす。

 

だが義弟が袁紹軍の将を斬ったとなれば、劉備はもはやここには居られない。

 

またしても彼は流浪の身となった。

 

 

 

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一方、関羽も義兄・劉備袁紹軍に居ると報せを聞いて、早々に身支度を整える。

 

しかし曹操は、関羽の武を惜しんで暇乞いを許さなかった。

曹操殿!

世話になった御恩は白馬の戦いでお返し致した!

かねての約定通り、拙者は兄者の下へ戻らん!」

 

無人の邸宅に虚しく響く関羽の雄々しき声色は、曹操の耳には届かない。

 

曹操に賜わった金銀財宝の類いは全て置き残し、ただ偃月刀と名馬・赤兎のみ駆って、関羽曹操の軍を離れた。

 

 

 

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徐晃は、関羽の前に立ち塞がる。

 

「・・・関羽殿、行かれるのでござるな」

 

 「徐晃殿、共に戦えたことを誇りに思う。

世話になった・・・拙者は兄者の下へ戻らん」

 

 

徐晃は大斧を握り、構えて言った。

曹操殿は貴公の出立を認めており申さぬ。

どうしても行くと申すか・・・」

 

 関羽も偃月刀を構える。

「如何(いか)な事があろうと、拙者は義兄・劉玄徳の大志と共にある。

邪魔立て致すなら我が義の刃を以って、貴殿とも戦わねばならぬ」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

二人は互いの眼を見つめ、武人として合い異なる道を歩む宿命を知る。

 

極限的緊張が走る。

 

 

 

 

 

徐晃は目を瞑り、恥をしのんで大斧を地に落とした。

 

「・・・拙者の負けでござる」

 

 

戦う前から勝敗は決していた。

 

「・・・悔しいが今の拙者の武では、関羽殿にはとても及ばぬ」

 

 

徐晃にはわかった。

 

関羽の並みならぬ武勇、その強固な志は劉備と共にある。

いま関羽はその劉備の下へ馳せ参じるべく、如何な困難も打ち破る尋常ならざる気魄が宿る。

 

対して徐晃は、武人として関羽を尊敬しなまじ友として理解するが故。

己が行くべき道を知り、晴れ晴れとした武の境地を駆け抜ける心地は、徐晃も知っている。

楊奉の下を脱し曹操軍へと馳せ参じたあの時武の頂きが見えた。

 

 

今の関羽に、徐晃は勝てない。

 

 

「拙者は未熟でござる・・・いまだ修練が足り申さぬ」

 

 

徐晃殿・・・」

関羽も偃月刀を収める。

 

 

己が武の不甲斐なさ悔しさと、燃え盛る闘志とで徐晃の眼には並みならぬ貌が覗く。

 

 

 

「・・・我が生涯を賭して武を極め、頂きへ至らん!

いずれまた戦場で相まみえようぞ。

その時こそ必ずや貴公を超え、討ち破らん!」

 

 

関羽には、徐晃の尋常ならざる決意が見えた。

 

「合いわかった、徐晃殿。

拙者もこれよりは兄者の仁の志と共に、更なる武の研鑽に励まん。

貴殿との宿命、いずれ戦場で果たそうぞ!」

 

 

関羽赤兎馬を駆り、劉備の下へ帰っていった。

 

 

 

その背を見送り、徐晃は拳を握り蒼天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

徐晃伝 十五 終わり