徐晃伝 八『牙断』

 

※この物語はフィクションです。

 

曹操軍の陣営には、綺羅星の如き数多の名将がいた。

 

中でも最古参の猛将・夏候惇は、特筆すべき存在感で曹操軍を率いた。

 

徐晃もこの夏候惇によく用兵と戦術の法を学んだ。

 

 

ある日、夏候惇が言った。

徐晃よ、許昌の鍛冶屋には腕利きが揃っている。

お前の戦に合った武具を好きに作らせるがよかろう」

 

徐晃がまだしっくりと来る武器を見つけていないのを見抜いたのである。

「夏候惇殿、かたじけのうござる。

しかし拙者は身一つで飛び出して参ったゆえ、財を持ちませぬ。」

 

「そうか・・・言っておいて難だが、俺も余財はすべて部下に分け与えて何もない。

・・・こういう時は、奴が適任だろう」

 

夏候惇が紹介した人物は、曹洪だった。

 

曹操の縁戚で旗上げから伴う忠節の将である。

 

曹洪は言った。

「・・・そういう話か。

ならば徐晃殿、我が財で好きなだけ、必要な武具を調達されよ」

 

徐晃は恐縮したが、曹洪は遠慮は無用と言う。

 

夏候惇が訝(いぶか)しんで尋ねた。

「お前の事だ、もっと渋ると思ったが・・・

なぜこうもすんなり徐晃に財を与える?」

 

曹洪は応えた。

徐晃殿の噂は孟徳から聞いておる。

謙虚で驕らず、恩を重んじる御仁という。

これは間違いなく大将に出世する器だ。

・・・今回の武具代は貸しとさせて頂くぞ。

いずれ徐晃殿が多くの禄を得られるようになった時、利子を付けて返してくれれば良い。

いわば、投資だな」

 

夏候惇は感心を通り越して少しあきれた顔だが、徐晃は深く感謝を述べた。

「拙者には出世など望むべくもないが・・・

曹洪殿、御厚意心より御礼申し上げる。

財は、必ずお返しいたす」

 

 

  

徐晃は、斧を所望した。

 

槍や戟では徐晃には軽すぎた。

もっと大きな、より重厚な一打を見舞える巨大な刃と、それを支える強堅な支柱を求めた。

 

鍛冶職人とは何度も話し合って、こんな巨大な斧を作った事はないと驚かれるが、徐晃の誠実で熱心な要望に応えてついに未曾有の大斧は完成した。

「牙断(がだん)」と号した。

 

重い。

 

常人には持ち上げる事すら困難な重量だが、徐晃はこれをずしりと握ってブォン!と振り回し、神妙に目を瞑った。

 

「これでござる!

この重みこそ武の極み・・・

この牙断を存分に振るう事が出来れば、拙者の武もより高みへと近づけるはず」

 

 

 徐晃は、ひたすら鍛錬に励む。

 

 

 

 

徐晃伝 八 終わり