徐晃伝 六『決意』

 

※この物語はフィクションです。

 

夜半、徐晃の軍営に突如一人の男が訪れた。

 

「やあ、久しぶりだね。徐晃殿」

大胆にも単身、丸腰で敵陣に乗り込んできたその顔、徐晃には見覚えがあった。

 

「・・・満寵殿?あの満寵殿か?

おお、なんと懐かしい!」

 

今は敵味方といえ旧知の仲、徐晃は礼を尽くして満寵を歓待した。

二人は何年ぶりの再会であろう、その旧交はいささかも曇らず大いに語り合った。

 

 

 

しかしやがて、満寵はかつてなく真剣な面持ちで用件を切り出す。

 

「単刀直入に言おう。

徐晃殿、いつまでこんなところで燻(くすぶ)っているつもりだい?」

 

徐晃の表情は暗い。

 

「君は、武の高みを目指しているはずだ。

良禽は木を選ぶ(※賢い臣下は良い主君を選ぶ)という。

楊奉のような小人物の下にいて、君は武の頂きとやらに辿り着けるのかい?」

 

「満寵殿、拙者にもわかっているのだ。

・・・しかし楊奉殿には命を救われ、世話になった御恩がござる」

徐晃は表情を曇らせた。

 

満寵は、真剣な眼差しを徐晃を向ける。

「今の君は、楊奉殿への恩に胡座(あぐら)を掻いて、もっと大事なことから目を背けているに過ぎない。

己の人生の責任を他人に委ねてしまって、君は本当にそれでいいのかい?

君の生き様、行くべき道を楊奉殿に託して、それで本当に迷いも悔いもないと言えるのかい?」

 

平素の満寵では考えられぬほど、熱く、誠を尽くして徐晃を説得する。

「私は、自分が望む道を選んで生きたいと思っている。

この乱世を終わらせる大望曹操殿はそれを実現すべく邁進するだろう。

その先には厳しい戦いが待っている。

私は、私のこの才を、曹操殿の大望のために使いたい。

これは、私が自分で選んだ道なんだ。」

 

「せ、拙者は・・・」

 

楊奉に仕えている事に、これだけの覚悟と決意は無い。

 

徐晃殿、君は傑出した武と志を抱きながら、その高みへの道を自ら閉ざしている。

私には、それがとても惜しまれる」

 

 

その熱烈な弁に胸を打たれた。

目の前の靄(もや)が晴れる思いだった。

 

徐晃の眼には、涙すら浮かんだ。

 

「おお・・・満寵殿・・・!

拙者の心は思い悩むあまりに曇っていた・・・

貴公のおかげで、迷いが晴れ申した!」

 

徐晃は満寵の手を握る。

 

「ははっ、そうこなくてはね。徐晃殿!」

 満寵は、屈託のない表情で友に笑いかけた。

 

 

 

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楊奉殿。長い間、世話になり申した」

 

徐晃は深々と頭を下げる。

 

 幕舎には誰もいない。

「命を救われ、取り立てて頂いた御恩には、我が武を尽くして報い申した。

・・・これからは、拙者の行くべき道を邁進いたす」

 

徐晃は、かつて楊奉から賜わった虎顎(こがく)を兵舎に立て掛け、一人静かに語った。

「この虎顎(こがく)は、お返し致す。

拙者には、いささか軽きに過ぎ申した」

 

徐晃は、楊奉の陣に背を向けた。

 

 

 

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「おのれ楊奉、裏切ったか!」

曹操の陣営は、突如叛旗を翻した楊奉への備えに追われていた。

 

しかしさすが想定外の展開にも素早く対応し、戦端を開くと精強を以って謳われる楊奉軍に堂々と渡り合う。

 

一進一退の攻防を続ける中、曹操軍の側に突如一隊の精鋭が現れた。

これは徐晃と、彼の武と人柄を慕う白波兵の一部が楊奉軍を離脱し、参陣したものである。

 

 

長駆直入、徐晃は騎馬を翻し高々と名乗りを上げた。

 

「徐公明、推参!

これよりは、曹操殿に助太刀いたす!」

 

 

徐晃は今、己の道を歩み始めた。 

 

 

 

 

 徐晃伝 六 終わり